シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜

 准くんの優しい眼差しは、どこか蒼を連想させた。
 きっと蒼が私とは別の人間だったのなら、こんな風に、慈しむように私を見つめてくれたのだろう。

「私、准くんの彼女になれて幸せだよ」

 私はほんの少し茶色掛かった准くんの瞳を見つめながら言った。
 今、心からそう思っている。
 准くんとの日々はドキドキと安らぎに満ちていて、一緒にいるだけで気持ちが華やぐのだ。
 いつもと同じ代わり映えのしない景色でも、准くんと一緒に眺めれば新しい発見がある気がするし、彼がいるだけで特別な場所に変わる気さえする。
 おいしいものを食べれば倍おいしく感じられるし、悲しいことがあったらその悲しみを分かち合って半分に減らすことができる。
 ……こんな感覚、彼と付き合わなければ一生知ることはなかったかもしれない。

「――そういうかわいいこと言われると、朝から襲っちゃいそうになる」
「あっ」

 いつの間にか、准くんの身体が私のうえに覆いかぶさる。
 普段は着やせして見える逞しい胸が見えると……やっぱり、ドキドキする。

「……身体は平気?」
「うん」

 昨夜、初めてそういうことをした私のことを気遣ってくれているのだろう。
 囁くような問いかけに、私がうなずく。

「一限はゼミだけど……出なくても平気?」

 今度はちょっと冗談っぽい問いだった。
 確かに朝からこんなことをしていたら、一限のゼミには間に合わないかもしれない。
 普段は真面目に受けているし、今回だけなら許されるだろう――なんて考えて、私はまたうなずいた。
 ……今は、彼と一緒にいることのほうが、ずっと大事なことに思えて。

「――好きだよ、碧ちゃん」
「私も好き」

 彼の唇が私のそれに重なる。
 蒼を想っていたころには知り得なかった、他人の唇の温もりと感触。
 ……好きな人に触れたり、触れられるだけで、こんなにも満たされるんだ。
 私たちは朝日を浴びながら、甘くとろけるような幸福を貪ったのだった。