シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜

「さよなら碧、必ず幸せになって。誰よりも愛してる」
「ぁ……蒼……蒼っ……」
 
 最後にひどく甘い言葉を残して、それまで頭のなかで反響するみたいに流れ込んできた蒼の声は――聞こえなくなってしまった。

「ねぇ、返事して――返事してよ、蒼……いつもみたいに……お願いだからっ……!」

 話をしたいとき、蒼は私の呼びかけにすぐに応えてくれた。
 だけどもういないんだ。
 蒼は本当に――私のそばから消えてしまった。

「っぁああああああああっ……‼」

 ――本当にお別れなんだ。
 私の幸せを願い、そのために自分が消えることを選んだ。
 私のために。……私が、普通の幸せを得るために。
 苦しくて、つらくて。やるせなくて、涙が止まらない。
 私はその場にうずくまるように慟哭した。
 ――ひどいよ、蒼。勝手に決めて、勝手にいなくなっちゃうなんて。
 私にはまだ、蒼とお別れする勇気も、覚悟もないのに。
 蒼のいない世界で、どうやって生きていけばいいの……?

「……あら、碧。あんたなに大きな声出してんの」

 それからほどなくして、玄関の扉が開いた。
 はっと顔を上げると、彼氏の家に出かけたはずの母親が、訝しそうにこちらを見ながら、リビングに入ってくる。
 黒いIラインのワンピースを着た彼女は、家を出たときの心弾むような雰囲気はどこへやら。苛立ちをまとっているようだった。
 しっかり目のメイクはファンデーションの白さとリップの赤さが妙に際立っていて、杏香のトレンドメイクとは対照的。
 色味の抜けた茶髪も相まって、ちょっと怖い感じがする。 

「お母さん……」