「蒼が遠くに行っちゃったら、碧も……あたしも寂しいよ。ほかに選択肢はないの? 本当にこうするしかないの?」
「そうだね。……ごめん」
 
 縋るように声を上ずらせて訊ねる杏香に、僕はためらいがちに謝った。
 今の僕には、これ以上の答えは導き出せそうにない。

「――でも杏香の気持ちはうれしい。ありがとう」
 
 僕との別れを惜しんでくれる人が、碧以外にもいることに、胸がじんとした。
 僕が微笑むと、溢れる涙を再度指先で拭った杏香が、僕の目を真摯に見つめた。

「蒼も、カミジュンに負けず劣らずイイ男だよ。……出会い方が違ってたら、あたしも好きになってたかも」
「ごめん、僕は碧ひとすじだから」
「知ってるし」

 本当はすごくうれしかったけど、敢えて軽口を叩いたら、杏香も素早く言い返してきた。
 僕と彼女が、同時に笑う。
 ずっとこうやって話していたい気もするけれど、決心が鈍りそうでいやだった。
 僕は飲みかけのペットボトルのキャップを閉めて、薄手のコートのポケットにしまい、立ち上がる。

「さよなら、杏香。明日、碧にちゃんと話してみるから――碧のこと、よろしくね」
「……任せてよ」
 
 涙目で笑った杏香に頭を下げて、僕は校舎に続く扉に向かって歩き出す。
 振り返らずに、まっすぐ――