乃愛はナイフを握りしめ、穴山の左胸に狙いを定める。心臓を貫いて殺す。圭介の何倍も苦しんで死ねばいい。
「(この男を殺したら、私も圭介の元にいくから……待っててね……)」
「うわあああああああ!!」
泣き叫びながらナイフを突き立てようとした、その時。
「そこまでだ」
乃愛の腕はいとも簡単に掴まれてしまった。そのままナイフを振り落とされる。
それはあの真田刑事だった。
「三好さん、こんな男のために罪を犯してはいけない」
その直後、背後から二人の刑事が走ってきて、あっという間に穴山の身柄を確保する。
「穴山大悟、殺人の容疑で逮捕する!」
穴山の腕に手錠がかけられた。そのまま穴山は連行される。
乃愛はそのまま崩れ落ちるようにへたり込んだ。そして声をあげて号泣する。
「うっ、うわああああああ!!」
悲痛な叫びが空まで届いたのかはわからないが、人目も気にせず子どものように泣きじゃくった。
真田に肩を支えられ、乃愛もビルを後にした。
乃愛の復讐が遂げられることはなかったが、穴山は無事に逮捕された。
「間に合ってよかったです。穴山を確保しに来たら、店のオーナーから三好さんに呼び出されて出て行ったと聞きましてね」



