乃愛は思わずビクッと肩を震わせる。穴山の目は笑っているが、まるで能面のように張り付いた笑顔を浮かべていて酷く不気味だった。
「僕の方がずっと前から君を見ていたのに。結婚までしようなんて、許せなかったんだ」
「な……」
「ああ、乃愛ちゃん、その顔だよ。君のその顔がかわいくてかわいくて仕方ないんだ」
乃愛はゾッとした。全身から鳥肌が立つ。
その時、あの時と同じ気持ち悪い視線の正体に気づいた。
「ストーカーも貴方だったんですか……?」
「ストーカーだなんて人聞きの悪い。君を近くから見守っていただけさ。
それなのに人を危ない奴みたいに言って、毎日乃愛ちゃんと一緒にいるようになって、ちゃっかり婚約者にまでなりやがった」
いつも笑顔で穏やかな穴山はどこにもいない。乃愛にとって恐怖と嫌悪、そして憎悪を与える人物でしかない。
乃愛は鞄から果物ナイフを取り出した。震える両手でナイフを握りしめる。
「よくも……よくも圭介を……っ!!」
「憎しみに震える君もなんて素敵なんだ!その目が僕だけに向けられていると思うと、ゾクゾクするよ……っ!」
「黙れ……!!」
気持ち悪いこの男を、今すぐ殺してやりたい。こんな男のせいで、圭介は――そう思うと憎悪と怒りに支配されてグチャグチャになる。
「圭介を返して……っ!!」



