乃愛の中で一つの光景がフラッシュバックされる。トイレから戻った直後の光景だ。
 今思えば、強烈な違和感があった。あの時は何も気に止めていなかったが、今思うとあれは――……。

 警報が鳴り響くみたいに、乃愛の鼓動は速くなる。証拠はないし、動機もわからない。
 だが、確かめなければならない。



「……本当に貴方じゃないのね?」

「違います!警察の方にも同じことを話しました!」

「……そう、わかりました。では、私はこれで失礼します」

「え……、どこへ?」

「ちょっと用事ができたので」


 乃愛はそう言って立ち上がり、会社を出た。それからあるところに電話をかける。


「もしもし、今から行ってもいいですか?ちょっと思い出して、聞きたいことがあって……はい、はい。今から向かいます」


 乃愛は鞄の中に眠っている果物ナイフを確認し、再び歩みを進める。
 もう乃愛に後戻りする道はなかった。ただ復讐という茨の道を進むしか、今の乃愛を突き動かすものはなかったのだ。