確かに乃愛もそうだと思った。レストランに来てはよく喋っていたし、圭介が一人で来る時もよくあったそうだが、それ以外のプライベートで会ったと聞いたことはない。
 店でトラブルになったというような話も聞いたことはなかった。


「私は、穴山さんが犯人だとは思えません」

「そうか、よかった。信じてもらえて嬉しいよ」


 穴山は心底安心したように胸を撫で下ろす。


「早く犯人捕まって欲しいんだけど……あ、そういえば」

「なんですか?」

「いや、やっぱりなんでもない……」

「教えてください」


 乃愛の真っ直ぐな瞳に気圧され、穴山は乃愛にこっそり耳打ちした。


「筧さんと言ったっけ……あの女性が、グラスを落として割ってしまったところを見たんだ」

「グラスを?」

「近くにいた圭介くんが駆け寄って、怪我をしてないか尋ねていたんだけど、彼女はなんだか慌てた様子で大丈夫ですって言ってトイレに行ってしまったんだよね。
あの時圭介くんが座っていたテーブルの横を通った気がして、ひょっとしたらその時に……」

「毒を盛ったかもしれないと?」

「あ、いや、実際に見たわけじゃないから。僕の想像なんだけど……」


 恐らくその後、トイレで乃愛と出会したのだろう。もし本当にその時に毒を盛っていたとしたら、やはり花粉が手について洗い落とした可能性がある。


「教えてくださってありがとうございます、穴山さん。スープ、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


 そう言って席を立った乃愛は、足早にレストランを後にした。