復讐の鈴蘭〜最愛の婚約者が殺されました〜



 もしかして、この視線の主が圭介を殺した犯人なのだろうか――……?

 乃愛の足が震えて動けなくなる。震える指先をギュッと握り、乃愛は自分に言い聞かせる。


「怖がってる場合?本当に犯人なら……そいつを殺さなきゃ」


 バッグの中には果物ナイフを忍ばせている。バッグの中に手を入れたその時、背後から肩を叩かれた。


「……っ!!きゃあっ!」

「……わあっ」

「……穴山さん?」


 振り返った目の前にいたのは、レストランに勤めている穴山だった。買い出しの最中だったのか、食材を入れた袋を抱えている。


「ごめん、驚かせちゃった?」

「いえ、私の方こそすみません」

「乃愛さん、良かったらうちのレストランに寄って行かない?」

「え?」

「そんな気分じゃないかもしれないけど、ちゃんと食べれているのか心配だったんだ。
僕がご馳走するから、どうかな?美味しいカボチャスープがあるよ」


 穴山は本当に心配そうに乃愛を気遣っていた。思えばここ最近、まともに食べれていない。食欲がなく、何も喉を通らなかった。


「それなら、お言葉に甘えてもいいですか?」

「はい!是非」


 穴山はホッとしたように顔を綻ばせる。
 確か穴山は乃愛より一つ上の29歳だったと思うが、笑った顔は幼い。