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アメリカのスラング英語で無口な人を牡蠣みたいと言う。
 
その日は激しく雨のよく降る日だった。
 
 私はどこにでもいる少し内気で自分に自信がない女の子。
最近のマイブームはマインクラフトと読書。
 
 特になにも普通の人と変わらない。
 
「今日雨だね」
「だけど今日楽しみだねー」
「緊張するねー」
 
 その日はみんな待ちに待った学芸会。
 各々がそれぞれ準備をしてきている。
 
 主役の人やメインキャストの人たちは緊張した顔で朝登校してきた。彼らはこの日のために血の滲むような努力をしてきた。
 
「今日は絶対みんなで成功させて最高の学芸会にしようね!」
「そうだね!頑張ろう!」
 そんな私の役はというと村人Bだ。
 なぜ村人Bになったかというと

「それでは役割を決めたいと思います!」
「主役やりたい人!」
「はーい」
「はい」
「はーい!」
「それでは話し合って決めてください!それでも決まらなかったらじゃんけんで決めてください!」
 
 主役は当然人気がある、クラスの中心人物の人達がやりたがる
「音響やりたい人?5人!」
「はーい!」
「照明やりたい人?6人!」
「はーい」
「道具係やりたい人?!」
 大道具、照明、音響はカースト中央の人達がやるものだ。
「村人Bやりたい人?1人!」
 空気は鎮まり返った。
 誰も手をあげない。
 
 そこで私はおそるおそる手をあげる。
「安西さんお願いします!」
 
 そしえ私は誰もやりたがらない村人Bの役をやることにした。
 村人Bの役の人気のない理由は悪者役に虐められるからだ。
 
 しかし私は誰かと話し合ったりじゃんけんしたりする事が好きではないのでこの役を選んだ。

「この土地は我らが管理する!お前たちはどっかいけ!」
「そんな!あんまりじゃありませんかー!」
「ええい知るかー」
 このやりとりは数えきれないくらい行われた
 この役が人気のない理由がよく分かる
 
 激の練習中に何度も悪者役に虐められる役を演じるのは気分が本当によろしくない。
 
 悪役をやっている役の人はクラスでもいじめっ子に部類される人種。
 
 悪者役が本当に似合っている。
 悪者役をやっている人達は悪い笑みを浮かべながら、気分を良さそうに演じている。

「優ちゃん大丈夫?この役辛くない?」
 私の親友、渡辺美雪ちゃんは心配そうな顔で私に聞いてきた。
 
 この女の子は本当に優しい心の持ち主で困ってる人に手を差し伸べてくれる天使のような人だ。
 
「全然大丈夫だよ、あくまで「役」だからねー。現実世界の話じゃないし」
 そう答えると
 美雪ちゃんはほっとした表情で
「辛くなったらいつでも言ってね!先生に相談するから」
 そう言ってくれた。
 
 セリフが少なくても自分の出番はすごく緊張する。
 毎回手汗が洪水のように出る。
 
 休憩時間は最近やってるマインクラフトの話や本の話をしてたら終わってしまい、次のシーンの練習が始まった。
 
 村人Bの役はセリフがあまり多くない。
 基本的に自分の出番が終わったら後はみんなの劇を見ているだけだ。

 学芸会前日まで念入りに練習をする。
 私は自分の少ないセリフを完璧に覚えることが出来ている。
 後は当日だけ頑張ればいい。当日だけ……

 そして学芸会当日。
いよいよ私の出番が近づいてきた。
 
 その日はいつも以上に緊張をして不安感がとても強かった。
 急にお腹が痛くなりトイレに駆け込んだ。
 トイレから出ると美雪ちゃんが心配そうな顔で
「お腹痛いの?緊張してるよね」
 と声をかけてくれた。
 
 私は心の中の不安を押し込みながら
「少しだけ緊張してるよー」
 そう答えた。
 内心は緊張で頭がおかしくなりそうだった。
 
 しかしここまで来たからには、当日頑張るしかない。
 私は手洗い場で自分の顔を洗い、気持ちを入れ直し、鏡で自分の顔をみた。
 
 ああ緊張と不安でどうにかなってしまいそう。

 そして私の出番が来た。
 いつも通りのセリフを言うだけ、たったそれだけをすればいい。
 
 そう思いステージに立つ。
 いよいよ私の出番、緊張と不安がどっと押し寄せてくる。
「この土地は我らが管理する!お前たちはどっかいけ!」
「……………………」
 あれ?おかしい
 喋れない……口が動かない。
 
 まるで身体と心が繋がっていないような感覚。
 どれだけセリフを言おうとしても喋れない。
 わたしの異変に周囲の人たちが気づいた時には会場がざわつき始めていた。

「そんな!あんまりじゃありませんかー!」
 私の異変に気づいた村人A役の人が咄嗟に代わりにセリフを言う事でなんとか最悪の事態は魔逃れることができた。
 
 そして私の出番が終わった。
「優ちゃん大丈夫?セリフ飛ぶなんて今までなかったのに」
「……………………」
 ステージ裏で美雪ちゃんが励ましてくれた
 しかしそれに返答しようと思っても喋る事が出来ない。
 
「優ちゃん大丈夫?」
私は手でOKサインを作った。そして自分の口を指差し、自分が喋れないことを伝えようとした。
 
 すると美雪ちゃんが
「優ちゃんもしかして喋りたくても喋れないの?」
 私は手でOKサインを作る。
「大変!すぐ先生読んでくるね!」
 
 そう言い、美雪ちゃんは先生を探しに行ってしまった。
 
 私は自分が何故喋れないのか理解が出来ずただ困惑していた。
 
 一体私の身体に何が起きたのだろう。
 
 この日からオイスターガールの生活が始まる……