「その子、確か春斗くんって言ってたけど、子どもの頃の康介にそっくりだった。その先輩っていうのがどんな奴か知らないけど、多分父親はそいつじゃないと思う……康介と小学生の時からの付き合いの俺が言うんだから、間違いないよ」


「何言ってんだよ。俺の子ども?さすがにそれは無理があるって……」


ちゃんと避妊はしてた……そんなことがありえるのだろうか。


でももし仮にそうだったとして、由奈はどうして俺に話してくれなかった?


そんなに頼りなかったのか、信用なかったのか。


責任を取らないような男だと思われていたのか……。


話してくれていれば、俺はすぐに働いて由奈にばかり苦労をかけたりはしなかったし、高校だって絶対に辞めなくていいように方法を考えた……。


そして俺は気付いた。


——だから、か。


由奈は俺がそうすると分かっていたから、全部1人で背負い込んだ。


急に素気なくなった態度も、一方的に告げられた別れも、突然学校を辞めていなくなったことも。


全て違和感があった。


そして今、そんな点と点が繋がって線になっていく。


それでも、くだらない話に笑いながら歩いた帰り道も、ペアリングを着けて出かけたデートも、俺の腕の中にいたあの時間も。


一緒に過ごしたあの日々は、やっぱりニセモノなんかじゃなかったことにホッとした。


もちろん、これは全て俺の都合のいいように捉えただけで、本当にあの先輩との子どもである可能性も十分あるわけだけど。


「……悪い。余計なお世話だとは思ったけど、自分じゃ抱えきれなかった……だって、あんな終わり方、2人とも不本意だっただろ……?」


「イメージ的にさ、絡まり合った糸が大きなダマになって、ずっと心の中で引っ掛かってる感じだったんだよ。それが今日やっとほぐれた。一哉のおかげで。話してくれてありがとな」


一哉は俺の言葉に頷きながら、その目はまだ何かを訴えかけていた。


それ以上は何も言われなかったけど、一哉の考えてることは大体分かる。


由奈に会わなくていいのかって聞きたいんだろ?


彼女に会うことはきっともう叶わない。


橘さんでさえ連絡先は教えてもらえなかったと話していたのに、俺がコンタクトを取るのはもっと難しいだろう。


それに由奈は一度決めたことを途中で曲げたりはしない。


〝誰にも言わない〟と覚悟を決めて行動したのなら、最後までそれを貫き通すはずだ。


俺はそういう真っ直ぐさにも惚れたから分かる。


別にいいんだ、例え会えなくても。


東京のどこかで、2人が幸せに生きていてくれれば、それでいい——。