____カラン。

彼の耳飾りが揺れる。

(うるし)

彼は彼女の名を呼ぶ。

「……直哉くん」

彼女も彼を呼んだ。
彼が振り返る。

「直哉、くん……?ど、どないしたん?そんな怖い顔して……」

彼は、静かに言い放つ。

「____お前のせいや」

と。


.

.

.



「……ぁ……」

銀色の瞳が開いた。
全身、汗でぐっしょりと濡れている。

____最近の私は、不安定や。

京都の1番大きい屋敷をもつ龍院家の長女。魔女の家系に生まれてきた12代目の東の魔女、それが龍院漆だ。
彼女は規則正しい生活を好む。
毎朝の起床は6時であり、就寝時間は10時半と決まっているのに。

____まだ、3時。

3時間も早く目が覚めてしまった。

____直哉くん。

悪夢を見るのだ。
この世の誰よりも愛している兄が魔女狩りに誘拐されたのが1週間前。
これは、溺愛でも偏愛でも敬愛でもなくて。

親愛だ。
故に彼女は、って胸を抑える。

彼の行方は、まだ分かっていない。

____うちを、庇ったからや。

龍院直哉。彼は東の魔女の従者だった。

____うちの、せいで。

彼がいなくなった日、1週間前の事を、今でも鮮明に覚えている。

姉様(あねさま)…?」

新しい従者の、龍院(うらら)。漆の妹である。
漆が起きた気配を察したのだろう。
部屋の外から声がかかる。

「風呂」

漆は冷たく言う。

「は、はいっ」

バタバタと動く音がし、漆は舌打ちをする。

____なんで麗が。

イライラして仕方がない。

普段の彼女は、こんなに感情的ではないのに。