「⋯やか。⋯⋯さやか」


「んー、な、何?」


「えっと、急に起こしちゃてごめんね」


寝ぼけながらも、椿の声を頼りに立ち上がる。


「ほら、こっち見て」


「んーなに⋯」


「うわぁ凄く綺麗⋯⋯」


目の前には、朝焼けが空一面に広がっている。
この絶景を椿と二人で見られたことが、ただただ嬉しかった。


「水族館までの距離は全然近いし、もう少し寝る?」


「ううん、空見とく」


「そっか、わかった。じゃあ僕は、水族館に向かう準備しとくね」


そう言って、椿は私から離れていく。
まだ、隣にいて欲しい。何だか寂しいから。


誰かといるのがこの二日で当たり前になつてしまった。
そして、隣にいるのは知らない誰かじゃなくて、椿がよかった。


「椿、もう少し隣に居て欲しい。ダメ、かな」


「ううん。大丈夫。いくらでも隣に居るよ、さやか」


今の私に、その言葉はとても嬉しかった。
ただその反面、その瞬間が消えるかと思うと怖かった。


「どうした?さやか」


「ううん、なんでもない」


今しっかり声を出せていただろうか。
分からないままゆっくりと、時間は進んでいく。


「今日、凄く楽しみ」


「うん。私も凄く楽しみ」


そうやって隣にしゃがみこむ椿は、私の手を大事に大切に握ってくれていた。