「はぁー疲れたぁ」
「お疲れ様、さやか」
そう言って飲み物を渡してくれたのは、椿だった。相変わらずに優しいな、椿は。
なんてことを考えていると、椿に帰りは一緒に帰らないかと誘われた。
もちろん、断るわけがない。
「ねぇ、今日の授業?めちゃくちゃ訳わかんなかった」
「うん、慣れていけばいいよ」
そんなたわいのない会話を交わしながら、帰り道である海辺に寄り道した。
「ねぇ、何で長袖か聞いてもいいかな」
「え」
これは、言っていいことなのだろうか。
気持ち悪いと拒絶されるかもしれない。
だとしたら、絶対に言わない方がー
「どんな事情でも、受け入れるよ」
茶色い瞳が私を捕らえる。
この人になら、言っていいのかもしれない。
本能のままにそう思った。
「あのね、私実は‥‥‥。家庭内暴力を少しだけ受けてるの」
「えっ、それは誰かに相談しないの?」
「うん、相談出来なかったから。今まで外に出して貰えなかったし」
ありのままの私をさらけ出したら、君はどんな反応をするだろうか。
少し興味が沸いたのは、私の性格が悪いからなのかもしれない。
「そっか、話してくれてありがとう」
「え?何でありがとうなの?」
聞いてもらった方が「ありがとう」と言うべきなのではないのだろうか。
「ううん、言い難いことを僕なんかに言ってくれたお礼だよ」
「僕なんか?椿は自分のこと嫌いなの?」
「うん、大嫌い、かな」
「そっか」
少し日のくれた茜色の空の下。
裸足でしゃがみこむ少女と少年が本音をぶつけ合う。
小説に持ってこいのシチュエーションだった。
「ねぇ、このまま僕と家出しない?」
「流石に、ダメだよねごめん」
「いや、行くっ!行きたい!椿となら、行きたいよ、私」
「わかった、じゃあ行こっか」
私たちは、許しあったように手を繋ぎ、家とは真逆の方向へと足を運んだ。