「笑うな」
不機嫌そう、というか照れているのを隠しているかのようにお酒を飲んでいる。
それを見てまたからかい光生さんが反発する、そんな会話を続けているといつのまにか食事も終わりにさしかかっていた。
12歳も年上の社会人と馬鹿みたいな話をして、先ほどまで広いのに窮屈そうな屋敷で光生さんの両親と交際相手の振りをしていたことなど忘れかけるほど、二人で思い切り笑ったような気がした。
最後の水菓子として果物が出てきて、あぁこれで最後なのだと思うと寂しさを感じている。
大変だったけれど、もう二度と経験することの無いことをこの一日で味わった。
きっとずっと、今日という日を忘れないだろう。
帰りの車の中、話題も無くなって沈黙が続く。
先ほどまで、もしかしたら光生さんは私に無理して合わせていたのかも知れない。
そんな事を気付かずに、光生さんもあんなに笑っていたし少しは楽しかったのでは無いか、なんて思っていたのだから所詮私は子供だ。
「紫央里」
ふいに名前を呼ばれて横に座る光生さんを見る。
「後でプライベートなメアドを送る。あとLINEもしてるんだろ?」
「何ですか急に」
「今夜から一日一回、何か面白そうなネタ送れ」
「・・・・・・は?」
これまた唐突な流れに不信感一杯の声を出す。



