「でも私が分割にして下さいとかお願いしても特に言いませんでしたよね?」
「そりゃそうだ、そんなつもりは毛頭無いんだから」
自分の眉間に皺が寄りだして、今日は一体何だったのだと思えてきた。
「もしかしてそれの為に対価の支払いなんて話を持ち出したのか?」
「そうです。だって学生からすれば大金になるでしょうし」
光生さんは綺麗な手を口に当て、面白そうに私を見ている。非常に不愉快だ。
「じゃぁ確認しますがネクタイの弁償は無いって事で良いですか」
「もちろんだ。お前は俺を助けるつもりだったんだろ?
そもそも俺も勘違いする状況作っていたわけだし、子供に弁償させようと思うほど金に困ってない」
なんか最初はいい人かもと思って聞いていたけれど最後が引っかかって嫌な気分だ。
「で、それは元々無かったわけだから対価はどうする?
先に言っておくが、その服装関係の費用やこの後の食事代もこちらで当然持つ」
実は気になっていたことをしっかり言われて、今度は私が腕を組み唸った。
一番の目標はそもそも存在していなかったし、確かに着慣れない服でずっと正座は足が痺れたし、緊張して疲れたから迷惑は思い切りかけられている。
身勝手な事に巻き込まれあげく利用されたけれど、そこまでなりふり構わなければならないほどの状況だった事には同情を禁じ得ない。
それにもうこれで終わること。
「いらないです。ネクタイの弁償無くなったので」
「何かあるだろ?欲しいものとか、叶えたいことくらい」
「そうですね、ありますけど他人に話すことでは無いので」
「なんだ、つれないな」
不満そうな声を聞いても無視する。
だって片思いの相手と両思いになりたいなんてのを、まだ知り合って間もない人に話すことじゃない。
そもそもこれは自分で叶えるべき事だし。
ため息が聞こえ、その主はもう興味が無くなったのか前を向いている。
「とりあえず飯だ。
それともキャンセルして、既に準備しているだろう料理を破棄させるか?」
うっ、と言葉に詰まる。
そんな失礼なこと出来るわけが無い。
「ご飯、頂きます」
渋々答えると、満足そうに光生さんは笑みを浮かべた。



