「大丈夫か?」
「大丈夫じゃ無いですよ」
項垂れていると横から平然とした声で尋ねられ、ムッとしながら答える。
「だが今日は助かった、ありがとう」
出来ればもっと早めにそういう言葉が欲しかったなぁ。
この人には無理なのかと思っていたので、そんな言葉に私がじっと光生さんを見ると嫌そうな顔をされた。
「あんな無茶ぶり頼んでおいても一応感謝する人だったんですね」
「人をなんだと思ってる。必要ならそれくらい言う。
で、今回の対価は何を希望するんだ?」
向こうから話題が振られたので、よし!ようやく言える、と私は姿勢を正して彼の方を向いた。
「ネクタイの弁償、これでナシにして下さい」
真面目に言ったのに光生さんは目を丸くした後、身体を丸めて声を抑えるように笑い出した。
もっと高い物でも要求すると思われていたのだろうか。
「あの」
「あぁ、悪い」
手だけ上げられたがまだ笑っている。何がそこまで笑いのツボを刺激したのだろう。
ようやく起き上がると、ニヤニヤした顔で私を見る。
先ほどまでの無表情だった姿とはほど遠い、悪戯な笑み。
そんな顔をしながらこちらを覗き込むように、
「俺は一度もネクタイの弁償を要求したことは無いが?」
と言い切られて間の抜けた声が出た。
予想外の答えにその時のことを思い出す。
私から分割にして欲しいとか私が言ったけれど、支払わなくて良いとも言われていないわけで。



