「今回サプライズでアメイジング・グレイスを披露して下さったのは、声楽など習っていない普通の高校二年生である川井紫央里さんです。
私の率いる新規事業開発部では、学生の皆様にも起業や新しい経験をして貰う場を提供しているのも一つの仕事としています。
以前セミナーに参加していた彼女の意見に興味を持ち、どうせなら大きな場所で歌う経験をしてはどうかと提案し、このようなサプライズとなりました。
アメイジング・グレイスは讃美歌とも言われていますが、作詞家のジョン・ニュートンが奴隷貿易をしていた頃の後悔、そしてその後神による許しを与えられたと感じたことから、許しの歌、感謝の歌などとも言われています。
アメリカでは最も愛されている歌であることもご存じではないでしょうか。
三ツ沢グループは以前より海外進出を考えておりましたが、本日アメリカ支店の設置が正式決定致しました。
今まで我がグループを支えて下さった皆様に心よりの感謝を、そして新たな船出をこの若々しい川井さんの歌声と共にご報告できることを嬉しく思っています。
最後に、川井さんに盛大な拍手をお願い致します」
言葉が終わると共に、一気に拍手が沸き起こる。
私は呆然としそうになりながらも笑顔を再度作って頭を下げた。
「行きましょう」
光生さんの声と共に彼が私の前に手を差し伸べる。
私のマイクを春日部さんが受け取り、私に笑みを向けた。
そっと目の前にある大きな手を取る。
泣きそうになるのを堪えて頷くと、二人で会場の中を歩き出した。



