「お待ちしてました、川井さん」
聞いたことのある女性の声に眩しい中相手を探せば、真っ赤なドレスの女性がマイクを持ち私に微笑みかける。
その人は、光生さんの義理の母親だった。
頭が真っ白になり、彼女がゆっくり近づいてくるのをただ凝視してしまう。
どうしよう、どうすれば。
「川井さんに何かお祝いの言葉を頂けるかしら?」
私の目の前に来て、彼女は余裕の笑みを浮かべ、マイクを差し出す。
それはとてもゆっくりとした動作に見えて、現実感が消えそうになる。
彼女の目的は私に恥を掻かせるためだ。
光生さんがいれば絶対に助けに来てくれる。
しかし今の時点で何も無いと言うことはここにはいないのだろう。
光生さんのお父さんがいるのかわからないが、現に何も言ってこなければ味方では無い。
なら私が何とかしなきゃならない。
お祝いの言葉なんてのを簡単にのべるだけで済むのだろうか。
いや済むはずが無い、制服姿の女子高生が何故ここにいるのだという視線が、ライトで周囲が見えなくたってヒシヒシと伝わってくる。
舞台をチラリと見て目に入ったのはグランドピアノ。
『音楽は武器よ』
ふとあの女性の言葉がよぎった。
もう、やるしかない。成功しなくてもやるしか無いんだ。
突きつけられているマイク。
私は拳を握り顔を引き締めて覚悟を決めた。



