「じゃ」
スタスタと部屋を出ようとした光生さんに手を引っ張られたのを無理矢理停めさせ、私は後ろを振り向いて二人の顔を見て頭を下げた。
表情の読めないお父さんとは対照的に、女性は舌打ちしそうな顔で睨んでいて頬が引きつりそうだ。
手を繋がれたまま廊下を歩いて曲がると、壁に男性が腕を組んでもたれかかっていた。
「へー、お兄様は子供が趣味だったんだ」
この人、さっき上で見ていた男だ!
お兄様、ってことはこの人は光生さんの弟なのか。
顔は一応良いのだろうけれど、チャラい感じで光生さんと違い品を感じない。
目つきも言葉も私には不快だ。
光生さんはその男性にちらっと目線を向けただけで無視して進む。
後ろでは馬鹿にしたような笑い声が聞こえて、一体この家はどうなっているのだろうと疑問を抱く。とても居心地が良い家だなんて思えない。
外で待ち構えていた車の後部座席に先に乗せられ、その横にどすん、と光生さんが座った。
「とりあえず腹減っただろう、何が良い?」
ネクタイを緩めながら問われたけれど、何というか気持ちが一杯一杯で食欲なんて、と思った途端お腹が鳴った。
気が抜けたせいだろうか、恥ずかしさに顔が赤くなる。
くくっ、と横から笑い声がするので上目遣いに睨むとまた笑われた。
「胃に負担のない方が良いな。いつも行く懐石の店にしてくれ」
「かしこまりました」
春日部さんが答えて車は動き出す。
私は和食が良いとか何も答えていないのだけれど、もう何か言う気力も無いほど一気に疲れが出てきた。



