夜の八時過ぎ塾を終え、一人で家に向かう。
高校二年になり四月も半ば、肌寒さと暖かい日が代わる代わるやってきている。
近づいてきたゴールデンウィークは人混みで死なない程度に満喫したい。
そんな事を考えながら、いつもは通らないルートを歩いていた。

あまり遅い時間に公園を歩くものではないが、気分転換に夜景を見て帰ろうと見晴台に向かえば人影が一つ。
あそこの下は崖になっていて、落ちれば危ない場所だ。
その柵から、人影が身を乗り出したのが見えた。


『自殺?!』


反射的に走り、持っていた鞄が落ちて中身が転がり出た事など気付かぬまま、その人の背中から両手で抱きしめるように掴む。


「早まっちゃ駄目です!!」

「は?!」

「生きてたら良いことだってありますから!」

「引っ張るな!」

「駄目です!」


思ったよりがっちりとした体格の男性が私を振りほどこうと暴れるので、必死にしがみついてこちらに引き戻そうとするが、力が強くてなかなか出来ない。