「紫央里」


はっとして顔を上げた。
私を呼んだのは両親では無く光生さんだった。

思わず周囲を見てみれば広いリビング。
天井が高く、モダンなインテリアが並ぶこの部屋の大きなソファーで、光生さんが私を覗き込んでいる。

そうだった。
今日クリスマスイブ、光生さんが両親に許可を貰い、光生さんのマンションで私の誕生日を祝って貰うことになったんだ。

目の前のテーブルにはオーソドックスなイチゴの乗ったホールケーキが切り取られてある。
真っ白なお皿にはクッキーで出来たプレートに私の名前が書いてあり、名残惜しくて食べられなかった。


「どうした、ぼーっとして」


再度呼びかけられて、今いる世界を確認するように隣にいる人をまじまじと見てしまった。


「すみません、ちょっと昔のことを思い出していて」

「どういう事をだ?」


その質問に、さっき思い出していたことを途切れ途切れに話した。
それを光生さんはじっと聞いていたが納得したように、


「そうか。だからこういうのが良いって言ったのか。
気取った店は単に嫌なのかと思っていたが」


と言われたので、そういう事だったんです、すみません、と頭を下げた。