「別に言葉にこだわるつもりは無い。デートが嫌なら、そうだな、一緒に出かけるってので認識してくれ」
まだ笑うのが止まらないのか、顔が楽しげだ。
でもそんな風に笑ってくれているのは良いなと考えて、すぐに自分に突っ込む。
しかし、随分と光生さんは変わった。
自覚は無いとは言え、こう大人な、真っ直ぐな気持ちをぶつけられると何とも言えない。
「やっぱり光生さん変わりました」
ぽつりと言えば、光生さんは目を細める。
「出かけるときにもその話はしたが、そうだな、地方の有名菓子店の話したの覚えているか?」
「もちろんです」
「俺は仕事でもミスを犯したことがある。
でもその後再度契約を取り付けているんだ。
人間だから間違えるのは仕方が無い。ようはその後どう動くかって話もしただろ?
今回俺はそれを実行している。
どうしても自分の愚かな行動で逃してしまった大切な魚を再度捕まえるために。
その為にならどんなにかっこ悪くても、面倒でも俺はやるよ」
その顔は決意に満ちていて、でもとっても優しい笑みだった。
格好いいと純粋に思える、そしてとても大人に見えた。
光生さんは運転席を降り、助手席に回るとドアを開ける。
「すまない、話し込んだ。ご両親によろしく。
あと、どういうのをやりたいのか連絡しても良いならしてほしい」
そう言いながら手を伸ばしてきて、私はその手を取って車を降りる。
きっと誰もが羨みそうなほど、私は贅沢を味わっているのだろう。
「お休み、紫央里」
「気をつけて」
運転席に戻った光生さんに挨拶し、車を見送る。
思い出した、あのテレビでのインタビュー。
光生さんは『逃した魚が大きくて再度捕まえる方法を考えている』みたいな事を話していた。
もしかしてあれは私のことだったの?!
ぶわっと自分の顔が熱くなる。
私を捕まえるためにやり方を変えてきて本気でぶつかってきているのだとしたら。
「逃げられるのかな。
私は、逃げたいのかな」
この気持ちは恋をしているのか、ただ押されているのか。
誰かこの気持ちが何なのか教えて欲しい。
私は夜空を見上げ、そろそろ満月になりそうな綺麗な月を見てため息をついた。



