ちょうど良い。私は彼の目を見て、
「私がそれに付き合う事への対価は?」
光生さんはこちらに視線を向けて口の端を上げる。
「当然支払う」
「お金では無く何でも構いませんね?」
「金でも何でも良い、紫央里の望むとおりにしよう。諾成契約でも契約だからな」
だくせいけいやく?と疑問に思っていたのに気付かれ、口約束のことだと返された。
まぁこれでいくらかわからない高額のネクタイを弁償することがチャラになるなら良いだろう。
一度で物事が済む。
そう思えば腹がくくれた。
「わかりました。
でも高校生と交際しているなんて嘘をつくんです、既にある程度のストーリーは出来上がってますよね?教えて下さい」
そういうと、彼は私に黒のでかいクリップで留めた書類を突きつけた。
その書類の題名には『交際までの略歴及び資料』と書いてあり、中をめくれば細かい文字でびっしりと書かれている。
それを見てこの人の性格が垣間見えた。障子の隅の埃とか気にしそう。
「到着するまでに覚えろ」
横暴な言葉に私のこめかみがひくつく。
私の少ない脳みそでそんな神業出来るか。
「元々車酔いしやすいんですが、こういうの読めば確実に吐きますよ。
読んで高級車の車内を汚す可能性と、わかりやすくこの場でレクチャー及び現地でのフォロー、どちらを選択しますか?」
苛ついた顔するだろうなと思ったのに、何故か彼は私をしげしげと見た後、笑った。
本当に楽しそうな顔で。
それは今までに無く幼く見えた。
「良い度胸だ。後者にするから聞いておけ。
その場で余計なことは言わなくて良い、俺がフォローする」



