○放課後
沙羅(ふぅー、今日の授業があっという間だったな)
退屈なはずだった1日が、嘘のようにあっけなく終わってしまった。もちろん原因は隣に座っている彼。
会話をすることはなかったが、目の保養になったのは確か。
椅子に座っているだけでも、絵になる人はそうそういない。横から見る彼の顔は画面越しに見る顔よりも美しささえ感じられる。
沙羅(こんなんじゃ、この先の学校生活いくら心臓があっても足りない...)
どうやら今日1日の間に、彼のことが学校全体に知れ渡ったしまったためか、放課後の廊下にはすごい数の人が溢れかえっていた。
興味本位で見に来る男子もちらほらいるが、大半は目をハートに変えた女子たちばかり。
目からハートが飛び出ているのではないかという勢いで、隣に座っている彼に熱い視線を送っている。
隣の彼といえば、早速クラスの男子と仲良くなったのか、何やら話をして笑い合っている様子。
周りのことなど一切お構いなしにしているのは本当にすごいと思う。私にはできないことだから。
勇人「あ、やっべ。俺そろそろ帰らないとだわ。また明日な」
周りにいた男子たちに挨拶を告げ、教室を出て行こうとする。
しかし、あまりにも廊下に人が溢れているせいか、思うように出ていくことができない彼。
沙羅(かわいそうにあれじゃ、帰ることができないよね)
私の心の声が彼に聞こえたのだろうか。教室を出て行こうとしていた彼が、こちらへと戻ってきて私の目線の高さにしゃがむ。
沙羅「えっ、えっ! なんで!」
勇人「あのさ、あれどうすればいいと思う?」
沙羅「な、なんで、わ、私に聞くんですか」
勇人「え、だって俺ら友達でしょ?」
沙羅「へっ!? と、友達・・・」
勇人「俺はてっきりそう思ってたけど、違った?」
沙羅「いい、いえ。と、友達でよろしくお願いします」
勇人「なんで敬語なのさ。面白いね、如月さん」
私に向けられたニコッと笑う彼の顔は、眩しすぎて私にはまだ対応できないほどの破壊力だった。
沙羅(うぉぉぉぉ! 花見勇人に名前で呼ばれたぁぁぁ!それに笑顔がま、眩しい・・・)
沙羅「そ、それより帰らなくてもいいんですか?」
勇人「そうだった、すっかり忘れてた。でもな、あれじゃ出られないんだよ」
沙羅「え、笑顔・・・」
勇人「笑顔?」
沙羅「笑顔で『みんなまた明日ね!』って言えばいいと思います」
勇人「ん・・・? それだけでいいの?」
沙羅「はい・・・」
『わかった』と言い、彼は廊下にいる人たちに向かって、私が言ったことを実行した。
一瞬にして胸を貫かれた彼女たちは、興奮が収まらぬ様子のまま彼が通るための道を開けた。
まるで、その状況は本当のアイドルが通るべき道であるかのようだった。ま、彼は本物のアイドルなんだけれど。
沙羅(よかった。これで、帰ることができるね)
後ろを振り返り、私に手を合わせて笑顔を振りまく彼が目に映る。
みんなに向けられたであろう営業スマイルではなく、自然な笑みに私の心は簡単に持っていかれてしまった。
○自宅
沙羅「はぁ〜!かっこ良すぎるよ〜。なんでよりにもよって私の学校なんだろう」
私の通っている学校は、特に芸能人が通っていたとか、そんな噂は一切ないごく普通の私立の高校。
どうして彼はうちの学校を選んだのだろうか気になる。
沙羅「まさか、昨日活動休止を発表したと思ったら、今日から同じクラスメイトで隣の席だとは・・・もう今日は嬉しくて寝られないよ〜!!!」
携帯でsnsを開く。トレンドにはまだ『カララブ解散』が入っている。他にも『カララブ人気絶頂』『カララブ心配』などの多くのトレンドでsnsが埋め尽くされている。
そんな話題沸騰中のメンバーの1人が、私の名前を覚えてくれたことに未だに神経の先まで震えが止まらない。
snsでメンバーの個人アカウントを開く。私の推しの早乙女くんやその他3人のメンバーのアカウントは更新されていなかったが、勇人くんのだけは唯一解散後初めて更新されていた。
沙羅「え、これって私のこと?」
私の携帯に表示された彼のアカウントの呟き。
勇人『僕は今日、面白い女の子に出会ったよ』
たったこれ一文だけなのに、気持ちが舞い上がってしまう。私のことだと言っているわけではないが、私の脳は自分のことだと思っているらしい。
この一文に対するファンの反応は、様々だった。相手が誰なのか、問い詰めるような質問を投げかけるコメントや自分のことだと書き出す者と色々な人がネットには溢れている。
何を血迷ったのか、私は自分のアカウントから彼のアカウントへDMを送った。
沙羅『こんにちわ。如月です。今日、勇人くんに話しかけてもらえて嬉しかったです。また明日からもお隣の席の友達としてよろしくお願いします』
120万人のフォロワーを抱えている彼からすれば、こんなDMは日常茶飯事だろう。当然、いちファンの私からのDMなど見られる訳もない...はずだったのに。
送った数秒後に既読がつけられる。
沙羅「え、嘘でしょ!? もう既読ついたの・・・」
携帯の通知が鳴る。画面の上部に表示される、通知のバナー。送り主は『花見勇人』と書かれている。
沙羅「え〜! 勇人くんから返事きた!」
あまりの衝撃に興奮が収まらない。手に持っている携帯すら、驚きと嬉しさで震えてしまっている。
しかし、彼から送られてきたのは私の予想を遥かに超えるものだった。
沙羅「なんだろう。このQRコードは・・・」
彼から送られてきたのは、言葉ではなくただのQRコード。恐る恐るQRコードを読み取ると、出てきたのは私たちが日常的に使っている連絡手段に用いるアプリ。
当然、私も家族と連絡を取る際に使っているものでもある。
沙羅「えっ! これって勇人くんの・・・」
アイコンには、彼が飼っている猫だろうか。猫が寝ている姿が、丸い枠組みに切り取られて表示されている。
”ピコンッ"
アプリの通知の音が、私の握られている携帯から響く。
送り主は勇人となっている。私の連絡先には、男の友達はいないので間違いなく彼からのもの。
勇人『明日からもよろしくね、如月さん。おやすみ』
そのメッセージから私は目が離せないまま時間だけが、どんどんと過ぎていった。
震える指を抑えながら、『追加』のボタンをそっと押した。
沙羅(ふぅー、今日の授業があっという間だったな)
退屈なはずだった1日が、嘘のようにあっけなく終わってしまった。もちろん原因は隣に座っている彼。
会話をすることはなかったが、目の保養になったのは確か。
椅子に座っているだけでも、絵になる人はそうそういない。横から見る彼の顔は画面越しに見る顔よりも美しささえ感じられる。
沙羅(こんなんじゃ、この先の学校生活いくら心臓があっても足りない...)
どうやら今日1日の間に、彼のことが学校全体に知れ渡ったしまったためか、放課後の廊下にはすごい数の人が溢れかえっていた。
興味本位で見に来る男子もちらほらいるが、大半は目をハートに変えた女子たちばかり。
目からハートが飛び出ているのではないかという勢いで、隣に座っている彼に熱い視線を送っている。
隣の彼といえば、早速クラスの男子と仲良くなったのか、何やら話をして笑い合っている様子。
周りのことなど一切お構いなしにしているのは本当にすごいと思う。私にはできないことだから。
勇人「あ、やっべ。俺そろそろ帰らないとだわ。また明日な」
周りにいた男子たちに挨拶を告げ、教室を出て行こうとする。
しかし、あまりにも廊下に人が溢れているせいか、思うように出ていくことができない彼。
沙羅(かわいそうにあれじゃ、帰ることができないよね)
私の心の声が彼に聞こえたのだろうか。教室を出て行こうとしていた彼が、こちらへと戻ってきて私の目線の高さにしゃがむ。
沙羅「えっ、えっ! なんで!」
勇人「あのさ、あれどうすればいいと思う?」
沙羅「な、なんで、わ、私に聞くんですか」
勇人「え、だって俺ら友達でしょ?」
沙羅「へっ!? と、友達・・・」
勇人「俺はてっきりそう思ってたけど、違った?」
沙羅「いい、いえ。と、友達でよろしくお願いします」
勇人「なんで敬語なのさ。面白いね、如月さん」
私に向けられたニコッと笑う彼の顔は、眩しすぎて私にはまだ対応できないほどの破壊力だった。
沙羅(うぉぉぉぉ! 花見勇人に名前で呼ばれたぁぁぁ!それに笑顔がま、眩しい・・・)
沙羅「そ、それより帰らなくてもいいんですか?」
勇人「そうだった、すっかり忘れてた。でもな、あれじゃ出られないんだよ」
沙羅「え、笑顔・・・」
勇人「笑顔?」
沙羅「笑顔で『みんなまた明日ね!』って言えばいいと思います」
勇人「ん・・・? それだけでいいの?」
沙羅「はい・・・」
『わかった』と言い、彼は廊下にいる人たちに向かって、私が言ったことを実行した。
一瞬にして胸を貫かれた彼女たちは、興奮が収まらぬ様子のまま彼が通るための道を開けた。
まるで、その状況は本当のアイドルが通るべき道であるかのようだった。ま、彼は本物のアイドルなんだけれど。
沙羅(よかった。これで、帰ることができるね)
後ろを振り返り、私に手を合わせて笑顔を振りまく彼が目に映る。
みんなに向けられたであろう営業スマイルではなく、自然な笑みに私の心は簡単に持っていかれてしまった。
○自宅
沙羅「はぁ〜!かっこ良すぎるよ〜。なんでよりにもよって私の学校なんだろう」
私の通っている学校は、特に芸能人が通っていたとか、そんな噂は一切ないごく普通の私立の高校。
どうして彼はうちの学校を選んだのだろうか気になる。
沙羅「まさか、昨日活動休止を発表したと思ったら、今日から同じクラスメイトで隣の席だとは・・・もう今日は嬉しくて寝られないよ〜!!!」
携帯でsnsを開く。トレンドにはまだ『カララブ解散』が入っている。他にも『カララブ人気絶頂』『カララブ心配』などの多くのトレンドでsnsが埋め尽くされている。
そんな話題沸騰中のメンバーの1人が、私の名前を覚えてくれたことに未だに神経の先まで震えが止まらない。
snsでメンバーの個人アカウントを開く。私の推しの早乙女くんやその他3人のメンバーのアカウントは更新されていなかったが、勇人くんのだけは唯一解散後初めて更新されていた。
沙羅「え、これって私のこと?」
私の携帯に表示された彼のアカウントの呟き。
勇人『僕は今日、面白い女の子に出会ったよ』
たったこれ一文だけなのに、気持ちが舞い上がってしまう。私のことだと言っているわけではないが、私の脳は自分のことだと思っているらしい。
この一文に対するファンの反応は、様々だった。相手が誰なのか、問い詰めるような質問を投げかけるコメントや自分のことだと書き出す者と色々な人がネットには溢れている。
何を血迷ったのか、私は自分のアカウントから彼のアカウントへDMを送った。
沙羅『こんにちわ。如月です。今日、勇人くんに話しかけてもらえて嬉しかったです。また明日からもお隣の席の友達としてよろしくお願いします』
120万人のフォロワーを抱えている彼からすれば、こんなDMは日常茶飯事だろう。当然、いちファンの私からのDMなど見られる訳もない...はずだったのに。
送った数秒後に既読がつけられる。
沙羅「え、嘘でしょ!? もう既読ついたの・・・」
携帯の通知が鳴る。画面の上部に表示される、通知のバナー。送り主は『花見勇人』と書かれている。
沙羅「え〜! 勇人くんから返事きた!」
あまりの衝撃に興奮が収まらない。手に持っている携帯すら、驚きと嬉しさで震えてしまっている。
しかし、彼から送られてきたのは私の予想を遥かに超えるものだった。
沙羅「なんだろう。このQRコードは・・・」
彼から送られてきたのは、言葉ではなくただのQRコード。恐る恐るQRコードを読み取ると、出てきたのは私たちが日常的に使っている連絡手段に用いるアプリ。
当然、私も家族と連絡を取る際に使っているものでもある。
沙羅「えっ! これって勇人くんの・・・」
アイコンには、彼が飼っている猫だろうか。猫が寝ている姿が、丸い枠組みに切り取られて表示されている。
”ピコンッ"
アプリの通知の音が、私の握られている携帯から響く。
送り主は勇人となっている。私の連絡先には、男の友達はいないので間違いなく彼からのもの。
勇人『明日からもよろしくね、如月さん。おやすみ』
そのメッセージから私は目が離せないまま時間だけが、どんどんと過ぎていった。
震える指を抑えながら、『追加』のボタンをそっと押した。