そして、大学で初めて彼氏に迫られた時、自分の体に痣がある事を話して、それでも俺は鈴音が好きだよ。と言ってくれた彼を信じて脱いだ時に言われた言葉。

"汚い"
"服を脱がないで"
"萎える"

父のせいで男の人と体の関係を持つことは凄く怖かった。
でも、大好きな人だから、それでも好きだと言ってくれたから。
なのに、あんな事を言われて以降、彼氏は出来ても体の関係は避け続けていた。
それが原因で、浮気をされたり、別れを告げられたり。
所詮、その程度なんだと思うようにしていた。

いつか、本当に心の底から信用できて鈴音の事をちゃんと好きになってくれて、鈴音も同じように好きになった人にしか見せないと決めていた。

「夕にも同じこと言われたらどうしよう」

夕とも、いずれ体の関係を持つことになるだろう。
その事を考えて不安で押しつぶされそうになっていると

「俺がなに?」

鈴音の顔を覗き込むようにして夕が聞く。

「な、なんでもない!!着替え、借りてもいい?」

そう言って脱衣場へと走っていこうとした時、腕を引かれて気づいた時には夕の腕の中。

「一緒に入る?」

ニコッと笑って聞いてくる夕に、鈴音は先程の不安から顔が真っ青になる。

「あ、いや、1人で入る、、、」

思っていた反応と違ったのだろう、夕が心配そうに鈴音を見ている。

「すず、風呂から出たら話しよう。ちゃんと。」

きっと、夕は喧嘩していた時のことを言っているのだろうと思った鈴音は

「うん、分かった。」

そう言って脱衣場へ歩いていった。
お風呂に入ると、冷えきっていた体には痛い程温かくて、全身浸かるまでに時間がかかった。

「ふぅー」

体が温まってきて、身体を洗おうと湯船から出ると鏡に映る痣だらけの身体。
自分で見ても気持ちが悪い。
これを見るだけであの日の記憶が鮮明に戻ってくる。

自宅のお風呂には鏡は置かないように母がしてくれ、現在一人暮らしの家でも誰かが泊まりに来た時以外は見えないようにしている。

「はぁ、はぁ、、、はぁ」

あの時の記憶が頭の中に流れ込んできて、息が乱れる。

苦しい、助けて、

「すず〜着替えここ置いとくよ?」

夕がこのタイミングで着替えを持ってきてしまったようで、パニックになっている鈴音は返事ができない。

「はぁ、はぁ、、っっごめ、なさ、、はぁ」

「すず?どうしたの?」

扉の向こうで心配そうに声を掛けてくれるものの、鈴音は上手く喋れない

「だい、じょ、、ぶ」

すると

「ごめん、入るよ」

そう言ってガバッと扉を開けて鈴音にタオルを被せようとしてくれた夕の体が一瞬にして固まる。

あぁ、やめて、見ないでよ。
もう好きな人が離れていくのは嫌なの。
好きな人にあんな目で見られるのは、嫌なの。

「みな、いで!!!」

振り絞った鈴音の声に夕ははっとして、バスタオルを鈴音に掛けてくれた。

「大丈夫、大丈夫だから」

そう言って鈴音を抱きしめてくれた夕の手には力が入って痛いはずなのに、鈴音には安心できてとても暖かく感じた。

夕はその後も落ち着くまで背中をさすってすれて、落ち着いた鈴音を確認してから

「もっかいちゃんと温まってから出ておいで?大丈夫?」

心配そうに鈴音の顔をみてそう言ってくれる夕に、コクンと頷くと夕はお風呂場を出ていった。

その後、鏡を見ないように背を向けて身体を洗い、再び湯船で温まってから出るとそこには綺麗に畳まれた夕の服とコンビニの袋に下着が入っていた。

お風呂に入る前に下着がない!と家に帰ろうとする鈴音に

「身体冷えてるんだからすずは外に出ちゃだめ。俺が買ってくるから。」

と言ってくれた夕を思い出して、本当に優しいな〜と改めて思う。

そんな夕に見られたこの身体。
この後部屋に戻った時の夕の反応が怖くて部屋に戻ることが出来ない。

やっぱり付き合えないとか、元カレのように汚いものを見るような目で見られたらどうしよう

考えれば考えるほど思考が悪い方に向いて、扉を開けられないでいると、夕が昔のように3回ノックをして

「すず、落ち着いた?大丈夫?」

「うん」

「昔の時みたいだね」

「うん」

「このまま今度は俺の話聞いてくれる?」

「⋯うん」