女の声・・・
みるみるうちに血の気が引いていく。
夕、もう彼女できたの?
私の事好きって言ってくれたのは嘘だったの?
不安な気持ちと、今までの元彼のように捨てられるのか、と悲しい気持ちで胸がいっぱいになる。
とりあえず、待ってみよう、、かな。
帰ってこなかったら諦めよう。
自分の目で見て、夕の口から聞かないことには納得できない。
そう自分を言い聞かせて、再び扉の前に座って夕の帰りを待つ。
昼間はまだ耐えれたものの、日が暮れると春とはいえまだまだ冬のように寒い。
震える体を擦りながら待つものの帰ってくる気配はなく、時刻は23時を回った。
「はぁーもう帰ってこないのかな」
そう呟いたとき
「なにしてんの?」
ずっと会いたかった夕が目の前に立っていた。
でも、鈴音を見る目は前と同じ。
迷惑そうな、鈴音を見ているようで見ていない目。
「話、聞いてもらいたくて。」
すると、何も言うことなく鈴音の横を通りすぎて部屋へと入る夕。
すれ違うとき、いつもの夕の香りではなく女性ものの香水の香りがして、鈴音の体は鉛のように重く、動かなくなる。
どこかで、あっくんの言ってたことが事実ではないと信じていた鈴音を、もう壊れそうになっていた鈴音の心を折るのには充分すぎた。
鈴音に見向きもせずに、部屋に入っていった夕。
「最後に気持ちを伝えるくらいはしてもいいかな」
泣きそうになりながら、夕の部屋の前に行き小さい頃、夕がしてくれていたようにノックをする。
「夕、聞いてくれなくてもいいから、これで最後にするから。私ね、あの日酔っ払ってプロポーズした時はほんとに、ただのノリのつもりだったの。夕の気持ちも知らないで最低だよね。でも、あれから夕が真っ直ぐに気持ちを伝えてくれて、いっぱい優しさで包み込んでくれて、、っっ」
涙が流れてきて、せっかく化粧をしたのにぐちゃぐちゃになって上手く話すこともできない
「私さ、あんなにタバコ吸ってたのにいつの間にか吸わなくなってたの。自分でも気づかないくらい。いつの間にか私の生活の中心は夕で、連絡が来るだけでも嬉しくて、会えない時は夕と次どこに行こうか考えたり、何してるのかなーなんて考えてたら電話が来て緊張したり。会える日は仕事中も浮かれてソワソワしたり。ほんとに毎日楽しくて、幸せで。自分の気持ちに気づいて伝えようとしたら絢斗、、元彼が仕事相手としてやってきて、夕との約束あるのに"仕事だから"って言われて、のこのこ接待なんて行って、夕のこと傷つけて。」
「ほんと、、ごめっ、、、。私、夕のこと好き、大好き。でも、もう夕には新しい人いるんだよね?ちゃんと整理するから、また幼なじみとして、よろしくね。」
この想いが夕に伝わるように、扉に頭を付けてふぅ、と1呼吸置いてエレベーターへと向かう。
きっと夕の事だから、聞いてはくれただろう、、、
「?!」
「ごめん」
ふわっと暖かいものに引き込まれて何かと顔を上げると、そこには大好きな夕の姿。
苦しくなるほど抱きしめられて体を持ち上げられる。
「え!?ちょっと夕?!下ろしてよ!」
「やだ」
夕はひょいっと鈴音を抱き上げたまま、ソファーへと座り隣に置かれてあった毛布で鈴音を
包み込む。
「話、聞いてくれてたの?」
「うん、あんな酷い態度取ってごめん。」
「ううん、私が悪いから。ていうか、こんな状況彼女に知られたら怒られるよ。私帰るから」
そう言って、夕の上から降りようとすると再び苦しい程に抱きしめられる。
「彼女なら今目の前にいる」
「え!?」
まずい!と思って辺りを見渡すものの、部屋の中には鈴音と夕しかいない。
「誰も居ないよ?」
すると、ムスーっと怒った顔をしてこちらを見ている夕の顔がいきなり近づいてくる。
「んっ///?!」
「すずは俺の事好きじゃないの?」
「好き、、、だけど彼女出来たんでしょ?」
夕は、何を言ってるのか分からないという表情で鈴音を見つめる。
「さっきから何のこと言ってんの?」
