4K幼馴染は溺愛がすぎる


お店に入り、白石さんはお酒を頼むが、鈴音は後のことを考えてウーロン茶にした。

「いや〜、それにしても鈴音が相手とはね〜驚いたよ」

「そうですね、で、聞きたいことあるって仰ってましたけど、どの辺りでしょうか?」

iPadを出してあからさまに仕事を意識させるように動く鈴音。

「あ〜、もう会社出たんだし敬語も苗字呼びも止めろよ。」

「いえ、仕事ですから。」

「こっちが気にすんだよ止めてくれ。」

相変わらず頑固な絢斗に思わずため息がでる。

「はぁ、で、聞きたいことって?」

「鈴音今彼氏とかいんの?」

「帰る。」

「おいおい!ちょっと待てよ!いいだろ少しくらい。」

「はぁーーー。居ても居なくても関係無いでしょ。早く仕事の話しないなら人待たせてるし帰るから。」

キッと睨みつけてそう言うと、やっと仕事の話を始める絢斗。
多少話がそれながらも、絢斗側の要望がハッキリと分かり、これからの方向性がより明確に分かって来てよかったと思った。

「やっぱりお前いい女になったなぁ〜、ほんと、俺とやり直さない?」

酔っているのかヘラヘラとしながらそんなことを口走る絢斗。
自分にも身に覚えがある為、少しあの時の罪悪感が蘇る。

「有り得ません。ではこの辺で。」

そう言って伝票を持って席を立とうとした時、ヒョイッと伝票を取られて

「俺が無理やり誘ったんだからここはこっちが持つよ」

と席を立ちレジへと向かう絢斗。
その後を着いて行き、お店を出ようとした時ドサっと絢斗が肩を組んできて

「なー、やっぱりより戻そうぜ」

としつこく迫ってくる。
呆れて引き剥がそうとした時

「すず??」

お店の壁に背をかけていた夕がこちらじっと見つめてくる。
すると、その目付きは鈴音が知っているいつもの気だるげな目でも、優しくこちらを包んでくれる目でもなく、ただ、蔑むような、軽蔑するような視線。

慌てて絢斗を引き剥がして

「夕ごめん待たせて!」

「お前、鈴音の何?」

絢斗が鈴音を再び引き寄せて夕を牽制するかのような視線を向ける。
すると、夕は一瞬寂しそうな表情をして

「流石にこの伝え方はないと思うよ」

鈴音と目を合わせる事もせずに、そう呟いて歩いてその場を離れていく夕。

「え、ちょ、まって!!」

もうどうにでもなれ!と

「最っ低!」

絢斗を突き放して夕の後を追う。
視界がどんどんぼやけていく。
今日こそは伝えようと思ってたのに。
やっと伝えられると思ったのに。

夕から向けられた冷たい視線が頭から離れない。

金曜日の夜
沢山の人で賑わっていて
田舎の一本道とも違うここで
直ぐに追いかけたはずなのに
夕を見つけることは出来なかった。

"ごめん"

"話を聞いて欲しい。"

"お願い"

電話をしてもLIMEをしても出てくれない。
ならばと思って家に行ってみたものの、居るのか居ないのかも分からない。

きっと、夕は絢斗が元彼なのも気づいてる。昔付き合ってた時に写真をみんなに見せたりしてたし。
そして、絢斗のあの発言にあの行動。勘違いするのも当たり前だし、隙を見せた自分が悪い。

あー、もうダメなのかな。
気持ちを伝えることも出来ずに終わっちゃうのかな。
なかなかはっきりしない私の事をあんなに大切にしてくれた夕を傷つけたまま。
接待なんか断ってればよかった。

後悔をすればするほど溢れ出る涙。
いくら連絡をしても、夕は返事をくれることはなく、その日は諦めて家に帰ることにした。

はぁ、、、。

タバコを吸おうと、鞄の中を探すと新品の箱が手に当たる。

あぁ、私しばらく吸ってなかったのか。
夕と居る時間は会ってても会ってなくても楽しくて、満たされていたから。
タバコを吸いたいと思う事がなかった。

自分にとって夕がどれだけ大切で、大きな存在になっているのかに改めて気づき、更に目から涙が溢れて止まらなかった。