クロードが避寒地から戻ってきて一月くらい経った頃、アリスは再びルイーズ王女と王宮で遭遇した。
その日は仕事で王宮を訪れた帰りに王太子妃ゾフィーの部屋でお茶を楽しんでいたのだが、非常識にも、突然ルイーズ王女が現れたのだ。

「お義姉様!私もご一緒させてくださいませ!」
先触れもなく現れた義妹に、ゾフィーは眉を顰める。
「ルイーズ、いつも言っているけれど、王族としての自覚と品位を持ちなさい」
「わかってるわよ!でも来年には隣国に嫁ぐのだもの。それまでは甘えさせてくれたっていいでしょう?」
「仕方ないわね…。ごめんなさいアリス。少しだけ付き合ってくれる?」
ゾフィーに申し訳なさそうに頼まれ、アリスは「とんでもない」と首を横に振った。
いつもなら兄である王太子からこってり叱られるからと、ルイーズはゾフィーに対してはあまり無茶なことをしないらしい。
しかしここ数日は王太子が視察で王都を出ているので、王女は増長しているようなのだ。
これは、後でゾフィーが話してくれたことだ。

「クロードの奥さんね、ごきげんよう」
ルイーズはアリスのすぐ側に腰をかけた。
彼女の護衛騎士たちは部屋の外で控えている。
「お目にかかれて光栄です、王女様」
「ああ、今日は残念ながらクロードはいないわよ。まぁ、奥さんなら知っているでしょうけど」
「……はい」
クロードは夜勤明けで、今頃まだサンフォース邸で眠っている。
ここでクロードと顔を合わせなくて済んだことに、アリスは少しホッとしていた。
正直、ルイーズにべったり侍っているクロードなどあまり見たくはない。
しかしこの後のルイーズとの会話で、アリスは神経をすり減らすことになる。