王女の二ヶ月間の離宮行きに付き従っていたクロードが王都に帰還したのは、王都の厳しい寒さがようやく少し緩んできた頃である。
クロードは王女を王宮に送ると、騎士寮には戻らずその足でサンフォース伯爵邸に向かった。
王女がまた駄々をこねようと、二ヶ月間も従ってきたのだからもう文句は言わせない。
文句を言われようと、もうクロードの耳には入らないのだ。

「アリス!」
クロードは乗ってきた馬をエントランスに横付けすると、そのままアリスの執務室に直行した。
驚いた使用人たちは彼の進行を防ごうとしたが、主人の夫だと気づき脇に避けるという状態だ。

「…なんだか騒がしいわね。なんの騒ぎ?」
アリスがのんびりと執務机から顔を上げると、突然ーバンッ!ーと勢いよく扉が開いた。
思わず驚いて立ち上がると、入って来たのは夫のクロードだ。

「アリス!」
クロードはツカツカと歩いて来て机を回り込むと、ガバッとアリスに抱きついた。
その抱擁は力強く、苦しいくらいだ。

「…旦那様…?」
呆然としているアリスを少し離すと、クロードは彼女の頬を撫で、腕を摩り、背中に手を滑らせた。
(え?ちょっと…!)
体を摩るクロードにアリスはちょっと引き気味になったが、彼は真剣な顔で彼女を見下ろすと、こう叫んだ。
「本当に怪我はないんですか⁈痛いところは⁈」
「…あ…」