「それに、四男もな、アリス」
父はレイモンとの不毛なやり取りを話した後、本題はこちらだとばかりにアリスに向き合った。
「婿殿が、王女について隣国に行くとは初耳だな。護衛騎士になったのは知っていたが、王女が輿入れするまでの話だと思っていたぞ」
「それは…」
「結婚しておきながら妻をおいて隣国に行くなど、そんな不誠実な男に娘を預けてはおけん。すぐに離縁しなさい、アリス」

やはりそういう話になるのかと、アリスはこっそりため息をついた。
「王女様の輿入れまでまだ一年以上ありますから、それまでは黙って見ていていただけますか?」
「まさか、後継だけもうけて仮面夫婦のまま過ごすつもりか?」
「いいえ…お父様の言う通り、いずれは離縁を考えております。でも時期は私に任せていただけますでしょうか?」

父は最後まで苦虫を噛み潰したような顔のままだったが、否とは言わなかった。

◇◇◇

二週間領地で過ごしたアリスが王都に帰京する日になった。
馬で駆ければ半日の場所にクロードがいて、ひょっとしたらちょっとでも顔を見に来てくれるのではないかという淡い期待は砕かれた。
しかしアリスは、クロードは仕事で来ているのだから、そんな時間は無いはずと自分に言い聞かせて領地を発つ。

領地を出た直後に馬車を襲われるというアクシデントがあったが、それは選び抜かれた精鋭たちが阻止してくれた。
正直、アリスはこういうことには慣れている。
そのために傭兵上がりの護衛を多数雇っているし、馬車だって頑丈に作ってあるのだから。
父は簡単な気持ちでアリスに爵位を譲ったわけではない。
いつ襲われるともしれない娘を守るため、万全の体制を取った上で領地に戻ったのだ。

「さぁ、王都へ帰ろう。私は私の仕事を頑張らないと」