(二ヶ月も…)
正直、クロードは気乗りしなかった。
おそらく離宮に向かえば休みもおざなりになってしまい、四六時中ルイーズ王女に振り回されることだろう。
あれほど夢見ていた職なのに、就いてみれば王女のわがままに振り回され、休みも返上して働いている。
今だって…。

「クロード、足が痛いわ、運んで」
ルイーズ王女が両手を差し出すのを見て、クロードは王女を抱き上げた。
こうして部屋からダイニングまでお姫様抱っこで運んで行くのだ。
もちろんこんな役目をさせられるのはクロードだけである。

あそこに運べ、ここに運べ、とその度抱き上げさせられ、他にも、
「クロード、私が眠るまで本を読んで。あなたの声の低さがちょうどいいのよ」
「クロード、腕が痛いの。マッサージして」
「ブティックに行くわ。一緒にドレスを選んでちょうだい」
と本来なら侍女に言いつけるようなこともクロードにやらせるのだ。
「御身に触れるわけにはいかない」と断れば、クロードには国王の許可が特別に出ていると言われてしまう。
実際、ルイーズ王女に甘い国王はなんでも許してしまうのだ。
これで後になって不敬罪に問われたりしたら、勘弁してくれとクロードは思う。
それに、こうして特別扱いされるクロードを、騎士仲間たちが妬むのは当然のことだ。

王女のわがままと騎士仲間の嫉妬を受け続ける二ヶ月間を思って、クロードの気持ちは重く沈んだ。
それに。
(やっと少し近づいたと思ったのに…)
クロードは初めて触れた、アリスの柔らかな唇を思い出していた。
最近、明らかに二人の距離は近づきつつある。