「私、来週から離宮に行くことにしたわ。二ヶ月程王都を離れるから護衛よろしくね」

ルイーズ王女がそんなことを言ってきたのは、クロードがアリスとデートに行った日から間も無くのことだった。
あのデートのことはどこから漏れたのかルイーズの耳に入っていたらしく、あの後根掘り葉掘り聞かれて閉口した。
もちろん当たり障りのない話しかしていないが、妻とのデートを何故他人であるはずのルイーズに気にされるのか意味がわからない。
それに、その日からルイーズはやたらと機嫌が悪く、休みの日でもクロードを呼び出すようになった。
ホワイトな職場のはずなのにおかしいが、他の侍女や護衛騎士たちもクロードが来ないと王女の機嫌が治らないと懇願してくるのだ。
だからクロードは、あのデートの日以来サンフォース邸を訪ねられなくなっている。

さて離宮だが、王家には国内の数ヶ所に直轄領があって、それぞれに離宮が建てられている。
王都は冬は寒く夏は蒸し暑いため、王族は避暑や避寒のために離宮で過ごすことが多いのだ。
しかし田舎は退屈だと嫌うルイーズは、昨年までは王都に残ることが多かったと聞く。
この冬も王都に残ると思いきや避寒地に行くと言うので、クロードたちは少なからず驚いていた。
当然クロードたち護衛騎士もルイーズに付き従って離宮に向かわなければならないからだ。