翌朝、アリスはスッキリとした気分で目を覚ました。
 前の晩よく眠れなかった分、昨夜はよく眠れたらしい。

(昨夜、私…)
 アリスは指でそっと自分の唇に触れた。
(キス、しちゃった…)
 二十二歳にして、初めてのキスである。
 ナルシスと婚約中何度も死守した唇なのに、昨夜はいともあっさりとクロードに奪われてしまった。
 警戒していなかった分本当にあっさりと、流されるように。
あんなどう見ても女慣れしていないだろう純朴な彼に。
(でも、全然嫌じゃなかった…)

 アリスは隣の部屋に続く扉の鍵を開けて、足を踏み入れた。
 そうだとは思っていたが、やはりクロードは泊まらずに宿舎に帰ったらしい。
何故とか、どういうつもりかとか、色々と聞きたいことはある。
でも一方で、ハッキリさせたくないという思いもある。

(次彼と会った時、どんな顔で会えばいいのかな)

 アリスはクロードと会う日を心待ちにしていたが、クロードが次にサンフォース邸を訪れたのは、しばらく後のことだった。