クロードはアリスをそっとソファの上におろすと、跪いて彼女の靴を脱がせた。
 突然足に触れられて、アリスの体がピクリと反応する。
「赤くなってしまいましたね…。ごめんなさい」
 クロードは擦れて赤くなったアリスの踵をそっと撫でた。
「キャッ」
 くすぐったくて、アリスはあらぬ声を上げて足を引いた。
 そんなアリスを見上げ、クロードはいたずらっ子のように笑う。
(何この子…。この前までの姿はどこいっちゃったの…⁈)
 そこには結婚当初の仏頂面のクロードはいない。
 年相応の、いや、それよりもさらに若い、可愛らしい少年のような笑顔だ。

「それでは、今日は早く休んでくださいね」
 クロードはすっくと立ち上がると、ドアの方に足を向けた。
 早くとは言っても、もうとっくに深夜である。
(待って…)
 アリスは思わずクロードのコートの裾を掴んでしまった。
 クロードが驚いて振り返ると、アリスは潤んだ目で彼を見上げていた。
「泊まって…、行かないんですか?」
「…え…?」
 クロードは思いがけないアリスの言葉に目を丸くした。
「泊まる…って…」
「だってもう時間も遅いし…。ここは旦那様の家でもあるのだし…」
 言ってしまってから恥ずかしくなって、アリスはクロードの裾を掴んだまま俯いた。

「……いいんですか?」
「…え…?」
「俺が泊まっても、いいんですか?」
「だから、だってここは貴方の家だし…」
「俺、ここに泊まったら歯止めが効かなくなるかもしれませんよ」
「それって…」
「こういうことです」
 アリスの視界は、突然彼の顔で覆われた。
 唇に、柔らかいものが押し当てられる。
(え…⁈私、キスされてる…⁈)
 確認するまでもなく、クロードの唇はあっという間に離れて行った。
その間、アリスは目を見開いたままだ。

「おやすみ、アリス」
 クロードは耳元で囁くと、颯爽と部屋から出て行った。