帰りの馬車の中。
 劇の途中で眠り込んでしまったクロードは、しきりに恥ずかしがって、アリスに謝ってきた。
「決してつまらなかったわけじゃなくて、貴女の隣が妙に居心地が良くて、なんだか安心してしまって…」
 そう言って頭を掻くクロードに、アリスは小さく微笑む。
 おそらく何も意図していないのだろうが、正直口説き文句にしか聞こえない。
無自覚でこんな台詞が出るなんて、なんて末恐ろしい子なのだろうかとアリスは思う。
 馬車の中だというのに、手はすっかりクロードに繋がれたまま。
 今日一日中手を繋いでいたから、まるでくっついてしまったのだと言うかのように。

 馬車が邸に着いて、クロードが先に降りて手を差し出した。
 アリスはいつものようにその手に自分の手を重ね合わせる。
 しかしステップを降りる時、かくんと膝が折れて踏み外しそうになってしまった。
 博物館ではかなり長い距離を歩いたから、思いの外足が疲れていたのだろう。
 落ちる…っと思った瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。
 気づけばクロードに抱き上げられていて、彼は心配そうにアリスの顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「だ…、大丈夫です!」
「いや、だいぶ足が疲れているようだから、このまま部屋までお運びしましょう」
「部屋まで…⁈大丈夫だからおろしてください!」
「いいえ。疲れたのは、私がたくさん歩かせたせいですから」
 クロードは軽々とアリスを抱き上げると、そのままエントランスに向かった。
 迎えに出て来た使用人たちは驚くやらニヤニヤするやら。
 アリスは恥ずかしくなって、クロードの胸に顔を埋めた。

 侍女フェリシーは最初は驚いていたものの、先に立ってアリスの部屋のドアを開けると、二人を残してサッサと部屋を出て行ってしまった。
 部屋を出て行く時に思わせぶりに頷いて見せたのがなんだか腹立たしい。