「ああ、この傷は『サウルの反乱』の折にガイモス将軍の剣で付いた傷と言われているんです」
クロードが博物館館内の柱の、小さな傷を撫でながらそう言った。
「まぁそうなんですの?旦那様は物知りなんですのね」
「この甲冑は伝説の騎士アーチーのものですね。大昔のものなのに、こんな完璧な状態で残っているなんて、素晴らしいと思いませんか?」
「ええ、本当に素晴らしいですわね」
クロードはアリスの返事に満足そうに頷くとやっと隣の展示に目を移した。

開館してすぐにこの博物館に来たのだが、もう何時間ここにいるのだろう。
クロードは一つ一つの展示の前からなかなか動かず、まだ三分の一も見終えていない。
結婚してこうして二人で外出するのは、例の夜会以外初めて。
要するに、初めてのデートである。
アリスとしてはデートらしいエスコートを少しだけ期待したのだが、やはりクロードはクロードだ。
正直アリスは疲れてきてもいたが、少年のように目を輝かせてはしゃぐクロードを見ているのも、案外楽しいと思った。

「あ、あそこは古代王国の遺物が展示してあるスペースですね。ちょっと見てきていいですか?」
「ええ。私はここで待っていますわ」
先の方に人だかりが出来ていて、クロードが迷わず向かう。
人気のあるコーナーは所々人が集まっていて、そこに突っ込んで行くクロードをアリスは少し離れたところで待っている。
最初はクロードに誘われたが、アリスは人混みが苦手だから気にせず見て来て欲しいと話したのだ。