(…可愛い…)
男の人に可愛いなど失礼かもしれないが、アリスは素直にそう思った。
敬遠している時はただ女性慣れしていない生真面目な堅物に見えていたが、少し打ち解けてみれば、彼は温和で純朴な好青年である。
そのクロードが、アリスを誘ってくれているのだ。
もしかしたら、離縁は決まっていてもそれまでの関係を少しでも円満に過ごせるよう、彼なりに気をつかっているのかもしれない。
「でも…、その演目は、旦那様はご覧になったのでしょう?」
「私は護衛の勤務中でしたから、劇の方は全く見ておりませんし、内容も覚えておりません」
「なるほど」
生真面目なクロードらしい回答である。

しかし、劇は覚えていないのに、劇場の外観を褒めるクロードにアリスは苦笑した。
夜会の席で流暢な外国語を披露したクロードを見て確信したが、彼はアリスが思っていたよりずっと博識だった。
特にあの時テルミー夫人に古い灯台を勧めていたように、歴史的建造物などに造詣が深いようだ。

「是非、ご一緒したいですわ。でも、護衛のお仕事は大丈夫なんですの?」
「護衛と言ったって二十四時間付きっきりなわけじゃありません。交代勤務ですから休みや明け番がありますし、こうして貴女とお茶を飲む時間だってあるでしょう?」
「でしたら…、一日中一緒にいられるのなら、昼間は国立博物館に行きませんか?」
「博物館ですか⁈」
クロードはにわかに目を輝かせ、身を乗り出した。
国立博物館というのは中央劇場の近くにあり、昔は宮殿として使われていた建物を国に下げ渡して博物館として公開しているものだ。
クロードが歴史的なものに興味があるなら、絶対に好きだと思ったのだが。

「行きましょう、是非!しばらく行ってないから新しい展示も気になってたんですよ!ああ、楽しみだなぁ」
嬉しさを隠そうとともせず顔を綻ばせるクロードを、アリスはあらためて可愛いと思った。