ルイーズの背中を見送った王太子妃は一つため息をつくと、アリスを振り返って困ったように笑った。
「ごめんなさいねアリス。末娘だし、隣国に嫁がせることもあって、両陛下はルイーズを甘やかし放題なの。そのせいでどんどんわがままになっちゃって…」
「大丈夫ですわ、妃殿下。それより…」
その後の言葉を飲み込んで、アリスはちょっと王太子妃を睨んで見せた。
一緒に帰れなどと、全く余計なお節介を焼いてくれたものである。

「妃殿下なんて他人行儀な呼び方やめてちょうだい」
実は王太子妃ゾフィーはアリスとは祖母同士が姉妹の、はとこにあたる。
幼い頃から交流があり、三つ年上のゾフィーは妹のようにアリスを可愛がってくれ、兄弟がいないアリスもまた、彼女を姉のように慕っていた。
公爵令嬢だったゾフィーは十八歳で王太子に嫁ぎ、すでに三人の子の母親でもある。

「縁あって夫婦になったのだから、少しは歩み寄る努力をしてみたらどう?」
そう言って苦笑するゾフィーに、アリスも苦笑で返す。
詳しく話してはいないが、アリスとクロードの夫婦仲など、ゾフィーにはお見通しなのだろう。
歩み寄るも何も、二人はすでに別々の方向を向いて交わることなどないだろうと思われる。
しかし、政略結婚でありながら立派に王太子に寄り添っているゾフィーに愚痴を言ったって、自分が恥をかくだけだ。

「…お心遣い、ありがとうございます」
アリスがそう言うと、ゾフィーは満足そうに微笑んだ。