ぽかぽかと小春日和のその日、宮廷の庭園を散歩するルイーズ王女の供をしていたクロードは、思わぬ人物と出くわした。
結婚して五ヶ月近く経つのにほとんど顔を合わせていなかった新妻アリスだ。
アリスは王太子妃と連れ立って歩いていて、その後に侍女と護衛騎士たちが続いていた。
どうやら、庭園の中心にあるガゼボに向かう途中らしい。

秋の庭園は色とりどりの花に彩られ、その間を花にも負けない美しい女性が歩いている。
「お義姉様!」
王太子妃の姿を見つけたルイーズ王女は彼女たちに声をかけた。
王太子の妹であるルイーズ王女にとって、王太子妃は義姉にあたる。
「あら、ルイーズ。お散歩ですか?」
「ええ、お義姉様は今からお茶会?」
「ええ、お友達が来てくれたから」
「まぁ、お二人で?」
ルイーズは珍しいこともあるものだと連れの女性の顔を見た。
王太子妃は時々こうして庭でお茶会を催しているが、数人呼ぶことが多く、客が一人というのは珍しい。
よっぽど仲の良い友人なのだろうと興味を持って見れば、今まで見たこともないような美しい女性だった。

「私の数年来の友人、サンフォース伯爵アリスよ」
「…はじめまして、ルイーズよ」
「お目にかかれて光栄です、王女殿下」
アリスはにっこりと微笑み、優雅な仕草でカーテシーを披露した。
その美しい姿に、ルイーズのお付きの者たちも見惚れている。
「サンフォース伯爵…?爵位持ちなの?夫人ではなくて?」
「ええ。アリスは女伯爵なの。若い女性ながら、立派に責務を果たしているのよ」
自慢の友人なのか、王太子妃は得意げにそう言った。

「サンフォース…って、聞いたことあるわね…。ねぇ、クロード…」
後ろに控えていたクロードを振り返って、ルイーズは言葉を切った。
クロードが、目を見開いてアリスを見つめていたからだ。
(彼女に見惚れているの⁈)
ルイーズの胸にもやっとしたものが広がり、つい苛立たしげに声をかける。
「クロードってば、聞いているの?」
「はっ、申し訳ありません」
クロードはそう謝りながらも、視線をアリスから離せなかった。
アリスもまた、クロードを見つめている。
その顔は僅かに口角を上げて微笑んでいるようにも見えるが、どことなく困ったような笑顔にも見える。