(アリス嬢が…、ここに来た?)
クロードは今騎士団長から告げられた言葉に耳を疑った。
昨日、アリスがクロードの上司である騎士団長を訪ねて来たというのだ。
机に頬杖をついた団長は、目の前に立つクロードを笑って見上げた。
「いい奥方だなぁ、彼女。お前のことを心配して、色々頼んできたよ。きっかけはともかく、大事にするんだな」
顰めっ面の多い団長がにこやかに話す様子を見れば、アリスとの対面が和やかだったこともうかがい知れる。

「頼むって…、一体何を…」
「まずは除隊の撤回だろ?…って、なんだ、聞いてないのか?」
訝しげに首を傾げる団長を、クロードは呆然と見返した。
(除隊の撤回だって?)
クロードは手に持っていた封筒を握りしめた。
表書きは『除隊願』。
コラール侯爵家から話は行っているが、今日あらためて自分から届け出るつもりだったのである。
団長はクロードの手の中にあるそれを見ると、さらに首を傾げた。
「なんだそれは?奥方は、クロードにも騎士を辞めないよう伝えてあると言っていたぞ?」
「しかし…」
たしかに式を挙げた夜、アリスから騎士を続けるよう言われていた。
しかし元々両家の結婚条件は、領主となるアリスを支えて働くこともその一つだったはずた。
断腸の思いでこれを書き、提出しにきたと言うのに。

「それから、ルイーズ王女殿下の護衛騎士に推挙して欲しいとも言われたぞ」
「……えっ⁈」
クロードは団長の言葉に目を見開いた。
「聡い奥方だな。自分なりに調べて、お前の望みがどこにあるのか知ったんだろう。元々そのつもりだったし、こちらとしては有り難い話だ。すでに上にも伝えてある。まぁ…、まずはお前がそれを引っ込めたらな」
そう言うと団長は握りしめたクロードの拳を指差した。