アリスは少々面倒になってきた。
殊勝に謝罪してきたと思えば距離を置きたいと言い。
騎士を続け、事業に関わらなくて良いと聞いて喜ぶと思いきや、不機嫌になる。
また、これはまぁそうであろうが、兄の名前を聞けばさらに不機嫌になる。

しかしクロードは被害者であり、何より自分より年下なのだ。
彼のことを思って言ったこととは言え、事業や領地経営に関わらなくていいと言ったことも少なからず彼の矜持を傷つけたのかもしれない。
クロードは鍛え抜かれた優秀な騎士であるし自分よりずっと身体は大きいが、三つも歳下の、まだ十代の少年なのだ。
とりあえずは今夜は自分がリードしなくてはいけないのではないだろうか。
アリスの中におかしな責任感がわき上がってくる。
アリスは思い切ってクロードとの距離を詰めてみた。もう少しで身体が触れ合う位置で座り直すと、クロードはびくりと反応する。

「とにかく。これからのことをゆっくりお考えになるのは当然のことですけど、それは明日からになさっては?それに、夫婦のことはそれとは別の話ではありませんか?しばらく距離を置いてとおっしゃいますけど、しばらくって一体いつまででしょう。それでは余計に距離が開いてしまうと思いませんか?私たちは突然、でも縁あって夫婦になってしまったのです。今夜は初夜なのですから、まずは触れ合うことから始めてみてはいかがでしょう?」
アリスは畳みかけるように一気に言い切ると、膝の上に置いてあったクロードの手に自分の手を重ねた。
「ふ、触れ合う…⁈」
思わず引き抜こうとしたクロードの手を、アリスは離さずさらに握りこむ。