「式直前に新郎が差し替えられるなど、貴女には本当に酷い恥をかかせてしまいました。しかし私も…、私は考える間も無くこんな事態になってしまい、正直今激しく戸惑っています。故に、貴女とはしばらく距離を置き、落ち着いてこれからのことを考えてみたいと思います」
「距離を?」
きょとんと首を傾げたアリスがクロードを見上げれば、彼は即座に目を逸らした。
「とにかく。もう式まで挙げてしまったのだから逃げようとは思いません。ただ、心の整理をしたいと…」
「…心の整理?」
アリスはクロードの端正な横顔を見つめる。
「…なるほど。もしかしてクロード様にはお心に決めた方がいらっしゃったのですね?それは申し訳ないことを…」
「違います!私にそのような女性はおりません。私は自分のこれからの身の振り方を考えたいと言っているのです」

距離を置きたいとか心の整理をしたいとか、新婚初夜には似つかわしくない言葉が並ぶ。
とにかくクロードは、婿入りさせられて騎士への道が断たれたことに絶望しているのだろう。
それなら、その憂いを取ってやることがまずはアリスのするべきことなのだろう。
アリスは「とりあえず、座りませんか?」とベッドの方を指し示した。
「いや、だから、それは…」
少しの間目を泳がせていたクロードに、アリスは小さく微笑んだ。
「こんな突っ立ったままでは話ができません。それに私は首が痛くなってしまうわ」
立っていると二人の身長差が大き過ぎ、アリスは見上げたまま話さなくてはならない。
それを聞いたクロードは、やがて諦めたようにアリスと並んでベッドに腰をおろした。
ただし、人一人分以上間を空けてだが。
アリスはそんなクロードに向かって、口を開いた。