結婚式でもお披露目パーティーでも、アリスは冷静だった。
騎士の訓練を受けているはずの自分よりずっと。
そんな姿がまた、クロードに屈辱を感じさせていた。

本当は、次兄の婚約者として顔を合わせた時から、魅力的な女性だと思ってはいた。
一見清楚で柔らかな雰囲気がある中に、凛とした佇まいもある。
その事業手腕は並外れたものがあり、格上の貴族や商会の古狸たちにも臆さず堂々と渡り合う度胸も称賛に値すると聞く。
それにその大きな碧色の瞳は、相手の目を惹きつけてやまない。
ずっと思っていた。
彼女はナルシス兄上には本当にもったいないと。
何故あんな男と結婚するのだろうと。
ナルシスはこんな素敵な女性と婚約しながら女遊びをやめなかった。
そんな兄を、クロードは心の底から軽蔑したものだ。
しかしアリスは、それをわかった上で結婚しようとしていたのだ。
よほど、兄ナルシスが好きだったということだろう。

クロードは傍に注いであったワインらしきものを一気に飲み干した。
そして立ち上がると、ゆっくりと扉の方へ向かった。

今夜は初夜である。
憤懣やるかたないが、彼女を無視するわけにもいかない。
騎士である自分が怖気付いたと思われるのも癪だし、何より、彼女だって被害者なのだから。