準備を終えたアリスは寝室に入り、侍女たちは下がっていった。

アリスは寝室の奥の扉を見つめた。
クロードの寝室とは隣り合わせになっていて、廊下に出なくても行き来できるよう、この扉で繋がっている。
今頃クロードはどうしているのだろうか。
深い後悔と不安で頭を抱えているのだろうか。
それに、彼は今夜どうするつもりだろう。
あの扉を開けて入ってきてくれるだろうか。

どっちにしろアリスにとっては今晩初夜だったわけで覚悟もできていたのだけれど、クロードにとっては全く想定外のこと。
だいたいたった数刻前まで義姉弟になる予定だったのだ。
普通の夫婦関係など望むべくもない。
アリスはなるべく早く後継者が欲しいから彼に協力してほしいと思うけれど、無理強いすることもできない。
(真面目で頑なと言ってもクロード様だって男の方だし、私から迫れば応じてくださるかしら?色気を出して、媚態を作って誘う?いやいや、そもそも色気ってどうやって出すの?)
悲しいかな、アリスにそちらの才能は全く無い。
今や優秀な為政者であり経営者である彼女だが、恋愛方面については全くもってポンコツなのである。

(せめて、お話だけでもできればいいな。そうしたら少しずつ近づいて、信頼関係を結んでいければ…)
そんなことを考えながら、アリスは黙って扉を見つめた。
いつあの扉が開くかわからない。
そもそも、クロードが部屋を訪れてくれるのかもわからないのに。