「たしかに以前の俺たちの関係なら離縁の準備をするのもわかるけど…。でも今机の上にあるってことは、最近準備したからなんじゃないんですか?」
「……旦那様が、避寒地から帰って来てからです…」
「旦那様…、ね…。その頃って、俺が騎馬試合の後話があるって言った頃ですよね?」
「……そうです」
「なるほど。俺が貴女に気持ちを打ち明けようと浮かれていた間、貴女は離縁を考えていたわけですね?」
「ち、違…っ」
「たしかにまだ気持ちを打ち明けてはいなかったけど…、でもここしばらくは、俺たち結構いい雰囲気でしたよね?それなのに、アリスは俺と離縁したかったんですか?」
「そうじゃなくて、それは捨て忘れていただけで…」
「でもアリスの署名、ちゃんとしてありますよ」
「……」

なんと答えたら良いのかわからず、アリスは口を噤んだ。
あの申請書は、ルイーズがクロードの初恋の人だと聞かされたり、ルイーズにクロードからのプレゼントだと髪飾りを見せつけられたアリスが勝手に辛い気持ちになって、勝手に離縁しようと取り寄せたものだ。
でも、それも誤解だったとわかった。
だいたい、あの事件でクロードに助けられた日から、アリスにはもう離縁する気なんてこれっぽっちもなくなっている。
本当に、この封筒の存在さえ忘れていたのだ。