「…王女殿下」
部屋に入ったところでクロードが声をかけると、ルイーズはサッとこちらに向き直った。
「クロード!来てくれたのね!」
パッと目を輝かせたルイーズはクロードに駆け寄ろうとしたが、傍に控えていた騎士二人がそれを押し留めた。
「何するの⁈不敬よ!」
「我々は王太子殿下から命じられておりますので」
無機質に答える騎士を、ルイーズは歯軋りして睨んだ。

細長いテーブルの端と端に座り、かなり距離を保ったまま、ルイーズの謝罪の席は始まった。
「今回は悪かったわ、クロード。でもお父様は何か誤解してるのよ。私がクロードの奥様に何かするはずないでしょう?クロードからもとりなしてくれないかしら」
思っていた通り、ルイーズは自己弁護と要求だけを繰り返した。
「全部、全部誤解なの」
「私は陥れられたのよ」
「事件を考えたのも実行したのも全部オーヴよ。オーヴはクロードに嫉妬してたの。私が貴方しか見てないから」

ルイーズの髪にはあの、避寒地で買った髪飾りが付いていた。
クロードの瞳の色…、藍色の、宝石でさえないガラス玉のついた髪飾りだ。
歪んではいたが、ルイーズが自分に向ける好意は本物だったのかもしれない、とクロードは思う。
わがままいっぱいに育ってきたルイーズは、欲しいものはなんでも手に入ると信じていた。
例えそれが、人のものであったとしても。
だが、その歪んだ想いを増長させたのは、自分にも咎がある、とクロードは思う。
命じられるままに侍り、言われるままに振り回された結果がこれなのだ。

王族の護衛騎士になるのが夢だった。
国のためにたった一人で隣国に嫁ぐ幼い王女を守りたいと願っていた。
そうそれは、新婚早々新妻と喧嘩をしてまで得た職であった。
ところが…、その先にあったものが、今や最愛の妻を傷つけられることだったなんて。