「…ねぇそれ、本当に危ないんじゃない?途中で破れたら落ちちゃうよ?」
引きちぎったシーツを縄のように撚り合わせているアリスに、ナルシスは心配そうに声をかけた。
「頑丈に撚っているから大丈夫だと思うけど…、まぁ、その時は仕方がないわ。落ちたら落ちた時よ」
「アリス…、君、思ってたよりずっと男前なんだね…。僕なんだかゾクゾクするよ…」
アリスはナルシスの声など聞こえないかのようにシーツを撚り続けている。

「…そうか、なるほどね。僕たちは醜聞を作るために二人きりで閉じ込められたんだよ」
せかせかとシーツを結ぶアリスに、ナルシスがまた声をかける。
「わかったのなら邪魔しないで」
やっと気づいたのか…と、アリスは一瞬だけナルシスに冷たい視線を向けた。
「あー、なんかいいね、アリスのその目」
「……は?」
「うわ、そんな目で見ないでー。本当にゾクゾクしちゃうから」
ナルシスの性癖など知ったことではないアリスは、黙って傍らにあった花瓶を頭の上に持ち上げようとする。
それを見たナルシスは、慌てて「嘘嘘」と手を横に振ったのだった。

シーツを結び終えると、アリスはその端を固く自分の体と窓枠に括り付けた。
そしてそのさらに端をナルシスが体に巻きつける。
「絶対離さないから。アリス、気をつけてね」
「頼むわね、ナルシス」
ナルシスは自分は残り、アリスを逃す手伝いを申し出た。
女性を窮地に陥れるのはいちおう彼の美学に反するらしい。

「アリス…、君はクロードが好きなんだね。だから僕と醜聞が立ったら困るんだろう?」
窓枠に手をかけて跨ごうとするアリスに、ナルシスが声をかけた。
アリスは振り向くと、満面の笑みを見せる。

「ええ、好きよ。世界中の人に誤解されても、クロードには誤解されたくないの」