「オーヴ、おまえは王女殿下が自分を守ってくれると思っているのかもしれないが、まずもうおまえの未来は無い。アリスに何かあったら、王太子妃殿下が黙っているはずがないんだ」
「……何?」
クロードの言葉を聞いて、ニヤニヤ笑っていたはずのオーヴが真顔になった。
今の王宮で確固たる地位を築いている王太子妃は、明らかにわがまま王女より権力がある。
「馬鹿な。そんな冗談には乗らない」
「俺も、こんな時に冗談は言わないさ」
クロードは剣の柄をしっかり握り直すと、オーヴを睨んだ。

「オーヴ、もう一度だけ聞く。アリスはどこだ?言わなければ、俺はおまえの片腕を落とす」
「な…っ!そんなことをすれば、おまえだってただではすまないぞ?」
「アリスが無事なら、俺のことはどうでもいい。片腕を失くす前に、アリスの居場所を言え」

クロードはスラリと剣を抜いた。
鬼気迫るクロードの瞳に、オーヴはたじろぐ。
騎馬試合の優勝候補に名前が上がるクロードに、オーヴが適うはずなどないのだから。

「後宮の…、今は使われていない棟だ。三階の、一番奥の部屋にいる」
そう言うと、オーヴは項垂れた。
しかしその顔には、薄く笑みを浮かべている。
「どうせ、もう遅い。今頃おまえの妻は、おまえの兄貴とお楽しみだろうさ」

ガッ!!
クロードは剣の柄でオーヴを殴りつけると、一瞬で踵を返して部屋を出て行った。

(アリス!アリス!頼む、無事でいてくれ!)
クロードは心の中で叫びながら、昔の後宮に向かってただひたすら走っていた。