「オーヴ!」
クロードは同僚の名を叫びながら宿舎に駆け込んだ。
真っ直ぐ同僚の部屋を目指し、ノックもせずに扉を開ける。
部屋に入るとアルコールの匂いが充満していて、オーヴと呼ばれた男はだらしなくソファに寄りかかっていた。
どう見ても、昼間から酒を飲んで酔っ払っているらしい。

「オーヴ!アリスをどこにやった!」
クロードはその男の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「…何のことだ?」
オーヴがへらりと笑う。
「おまえ、会合の場からアリス…、サンフォース伯爵を連れ出しただろう?」
「知らないな。何故俺がそんなことをするんだ?」
「おまえがやったのはわかっている。証言する者だっているんだぞ?」
「何だ証言って。証拠でもあるのか?だいたい俺はおまえの妻なんて知らないし、連れ出す理由もないだろう?」
「なるほど…、王女殿下の指図か」
薄々そうじゃないかとは思っていたが、クロードはオーヴの態度を見て確信した。
王女の指示に従ってやったことだから、オーヴはこれほど強気なのだろう。

「オーヴ、答えろ。アリスはどこだ。アリスに何かあってからでは、おまえの身も危ういぞ」
「ハッ!バカを言え。たかが女伯爵とその婿に何が出来る」
オーヴはクロードをバカにするように笑った。
前々から思っていたことだが、オーヴはクロードのことが嫌いらしい。
おそらく、クロードがルイーズ王女に寵愛されていることが原因なのだろうが。