その日、アリスは鉄道事業の会合で王宮に来ていた。
今日は宰相を交えての大きな会合で、関わりのある部門のトップや事業主、領主たちも集まっている。
コラール侯爵家からは長男パトリスと三男レイモンが参加しており、アリスはあの意味不明な求婚騒ぎ以来、初めてレイモンと顔を合わせた。
レイモンも侯爵家から独立する貴族として、この会合に初めて参加したらしい。

会合が終わると、アリスは事業主たちに取り囲まれた。
事業主たちは皆、やり手の女伯爵と良い関係を結びたいのだ。
そしてやっとその輪を抜けた頃、それを待っていたように近づいて来たのはやはり義兄レイモンだった。

「お久しぶりです、アリスさん」
「…お義兄様、ご無沙汰しております」
アリスは仕方なく微笑みを顔に貼り付けて挨拶した。
正直、薄ら笑いを浮かべているレイモンの前から逃げ出したい。
義妹である自分に邪な思いを持っていると知ったあの日から、アリスはレイモンが気持ち悪くて仕方ないのだ。

「この後よかったらお茶でもいかがですか?」
「…申し訳ありませんが、この後は予定がありますの」
「まぁ、そう言わず…」
そう言って近づいてくるのを避けようとした時、突然グンッとレイモンが離れた。
見れば、後ろから長兄パトリスに引っ張られたようだ。
「レイモン、アリスさんには近づくなと言っただろう?その約束でここに来たはずだ」
パトリスはレイモンの腕を掴んだまま、アリスに申し訳なさそうな顔を見せた。
「すまない、アリスさん。絶対に貴女に迷惑はかけないから」
「…大丈夫ですわ、パトリスお義兄様」